「暖房はエアコンが圧倒的に省エネ」を自宅実験で実証-

冬の節電DIY:
 前回「自宅のエアコンとストーブで暖房器具の消費電力を調べてみた」の実験のデータを見ると、エアコンの消費電力は0.22~0.23キロワットアワーとほぼ同じだったが、セラミックファンヒーターは0.48キロワットアワーとかなり消費電力が多かった。今回は消費電力に焦点を当てて実験を行ってみた。果たして同じ条件下で最も消費電力が少ない暖房器具は……?
 夏はエアコンと扇風機が主製品で選択肢は少ないが(冷風扇もあるけど)、冬はエアコン、電気ストーブ(ハロゲン、セラミック、カーボンなどの各種ヒーターを含む)、ホットカーペット、コタツと電気による暖房器具だけでも多数存在している。加えて石油ストーブ(ファンヒーター含む)、ガスストーブと電気以外のエネルギーによる暖房器具もある。全ての検証はできないが、どれが省エネなのかを考えてみたい。
グラフ「エアコン 設定温度19度の場合」、ほか:(http://bizmakoto.jp/bizid/articles/1202/03/news008.html)
 筆者宅にはホットカーペット、コタツもあるが、もう何年も押し入れから取り出したことはない。稼働しているのはエアコン、セラミックファンヒーター、石油ファンヒーターとなっている。
 コタツは嫌いじゃない。むしろ学生時代はコタツを常用していて、コタツの脚の下に電話帳を入れてかさ上げし、寝返りが打てるようにして朝まで寝ていたほどだ。だが、コタツに入るとそこから動けなくなるのが嫌いという理由で使わなくなった。加えて睡魔に襲われる率も高く、こうして原稿を執筆する際の敵だと思っている。ホットカーペットも部屋全体を暖めるには不向きで、ついつい寝転がって貼り付き、そこから動けなくなるので使用していない。
 というわけで、コタツとホットカーペット以外を検証する。まずは電気を使用するエアコンとセラミックファンヒーターで消費電力を比較してみよう。エアコンに関しては設定温度を上げたときにどれくらい消費電力が増えるかも実験してみた。
 前回の実験から暖房方法によって測定場所の温度差があることが分かったので、今回はサーキュレーターに加え扇風機も用意した。サーキュレーターは前回と同じ位置で上方向に風を送り、扇風機は窓際から横方向に風を送り上下左右に空気をかき混ぜて温度差が少なくなるようにして測定を行った。エアコンの設定は風は下向き、風力は自動で統一した。
●セラミックファンヒーターは30分で0.49キロワットアワー
 最初はセラミックファンヒーター(電気ストーブ)。サーキュレーター+扇風機の効果は高く上下4カ所の温度は1度以内に収まった。電源オンの時に消費電力が跳ね上がるが、その後は1000ワット弱で推移、30分ほどで温度は19~20度まで上昇し、30分間の消費電力は0.49キロワットアワーとなった。
●設定温度19度のエアコンは30分で0.17キロワットアワー
 過去の実験でエアコンは設定温度より実測値がやや高い温度になる傾向があったので、セラミックファンヒーターとほぼ同じ温度になるようにエアコンの温度設定は19度とした。19度にしても実測値はスタート10分くらいから20~21度で推移し、消費電力は最初は500ワットを越えたが温度上昇とともに安定し300ワット強で推移。27分過ぎには温風を停止しアイドリング状態(23ワット)となった。測定は30分で区切っているが、30分を過ぎたところから温度低下を感知し再び稼働し300ワット台を表示した。30分間の消費電力は0.17キロワットアワー、セラミックファンヒーターの3分の1程度となった。
●設定温度21度のエアコンは30分で0.24キロワットアワー
 設定温度を21度に上げ、その他は同じ条件で実験を行った。室温は10分ほどで21~22度に上昇し安定状態へ。消費電力は温度上昇する間は600ワットに達したが、その後は徐々に下がり最後は300ワット強まで下がった。30分間の消費電力は0.24キロワットアワーとなった。30分の比較では設定温度を2度上げたことで40%ほど消費電力が増えたことになる。最上段から下段までの3カ所はほとんど温度差がなかったが、最下段は19度設定のときは約1度、21度設定にすると2度弱に温度差が広がっている。
●設定温度28度のエアコンは30分で0.56キロワットアワー
 最後はグッと設定温度を上げて、28度で実験を行った。寒い部屋に帰宅すると、設定温度を上げて早く暖めたい、といったシチュエーションを想定してみた。後から気付いたのだが、この実験はスタート時点の温度が他の実験よりコンマ何度か低い。加えてスタート2分間はほとんど温度上昇がなかった。換気の際に部屋全体(壁、床、天井、家具、エアコン本体)を冷やしすぎたせいなのか理由は不明だ。結果として20度に達する時間は最も遅かった。最初の2分のデータを削除して意図的に他のデーターと曲線を重ねてみると、ほんのわずかしか上昇カーブに差は見られなかった。印象としては温度設定を変えても室温が上昇する時間は大差がなく、それぞれの設定温度に達すると安定状態に移行するといった感じだ。
 これまでの実験と異なり、上下の温度差が広がっている。19度設定、21度設定のグラフも考慮すると室温が上がるにつれ上下の温度差が拡大しているように思える。最上段の温度をみても30分では設定した28度には達しなかった。この実験は最後だったので、30分の時点で消費電力量を確認後45分まで継続測定を行ったところ、30分を過ぎてから安定状態となった。温度は最上段が27.3度くらい、上段が25.8度、下段が24.8度、最下段が21.5度くらいで推移した。消費電力は開始直後からグングン上昇し、数分で全開の1200ワット弱に到達。一瞬だけ様子見をするが、その後もフルパワーに近い状態で推移し30分を過ぎてからは1100ワット前後となった。30分時点の消費電力は0.56キロワットアワー、セラミックファンヒーターの値を少し上回った。設定温度19度に対し3.3倍、21度に対し2.3倍と大幅に消費電力は増えた。
●暖房はエアコンが圧倒的に省エネ
 4つの実験の結果を表にすると、
 セラミックファンヒーター(電気ストーブ)に対し、エアコンは圧倒的にエネルギー効率がよいことが分かる。エアコンは電気代が高いというイメージがあるが、実際にはかなり省エネな暖房器具だと言えよう。その理由はヒートポンプという仕組みだ。
 ヒートポンプは熱を発するのではなく、熱を運ぶ装置だ。エアコンの冷房は室内の熱を室内機で吸収し、室外機から放出する。暖房はその逆で屋外の熱を室外機で吸収し、室内機から部屋に放出する。冷蔵庫は庫内の熱を側面、背面などから放出し庫内の温度を下げる。
 簡単にヒートポンプの仕組みを学習してみよう。まずは圧縮と膨張。気体を圧縮すると温度は上がる。自転車の空気入れのように空気を圧縮するとタイヤに入れた空気や、空気入れ自体が熱くなる現象だ。逆に気体が膨張すると温度が下がる。埃を吹き飛ばすエアーダスターを使用するとスプレー缶が急速に冷える現象である。
 次は熱の移動。熱は熱いところから冷たいところへ移動するのはご存じだろう。この圧縮、膨張、熱の移動を使うのがヒートポンプだ。
 エアコンの室内機と室外機はパイプでつながっていて、その中の冷媒が熱を運ぶ。暖房の場合、膨張によりマイナス10度に冷やされた冷媒が室外機で熱交換を行い0度に暖められる。仮に外気温が2度でも冷媒がそれより低い温度であれば屋外の熱を吸収することが可能だ。このとき室外機から気温より冷たい風が放出される。
 屋外の熱を吸収し、冷媒がマイナス10度から0度に暖められたとしよう。この冷媒を圧縮すると温度は一気に60度まで上昇する。これを室内機まで移動しエアコン(室内機)で熱交換を行い室内に熱を放出する。室内が暖かくなる分冷媒の温度は下がり、35度と生暖かくなった冷媒が室外機に戻る。戻ってきた冷媒を膨張させてマイナス10度まで冷やし、再び室外機で暖める。これの繰り返しだ。冷房の場合は膨張と圧縮を逆にした動作を行う。
 電気で電熱線から熱を出すのではなく、膨張、圧縮により冷媒の温度を変化させて室内外の熱を移動するのがエアコンの仕組みだ。気温により効率は変化するが、ヒートポンプを稼働させるエネルギーに対し、運ぶ熱の方が大きくなるため、電気を使う他の暖房方式より古い機種でも3倍くらい最新の機種では7倍も効率がよくなる。
 弱点は外気温が低くなると効率が落ち、寒冷地になると室外機の凍結を避けるためのヒーターが必要となる。そのため寒冷地ではエアコンより石油ファンヒーター等を使うことが多い。室外機が雪に埋もれるような場所では使用することもできない。
 実際の効率は外気温に左右されるが、エネルギー効率(省エネ)の目安となる数値がAPF(Anual Performance Factor:通年エネルギー消費効率)だ。以前はCOP(Coefficient Of Performance:エネルギー消費効率)という方式で冷暖房能力と消費電力の比率を表記していたが、現在は年間の冷暖房に必要な冷暖房能力総和と消費電力量の比率で表記し、より実際に使用状態に近くなったといわれている。COPは一定条件で運ぶことができる熱量と、それに要する電力で以下の式で求められる。
・暖房COP=暖房能力/消費電力
・冷房COP=冷房能力/消費電力
・冷暖房平均COP=(冷房COP+暖房COP)/2
 (※)暖房能力は外気温7度、室内温度20度とした場合の、室内の空気に加える単位時間当たりの熱量(※)冷房能力は外気温35℃、室内温度27℃とした場合の、室内の空気から除去する単位時間当たりの熱量
 APFはかなり複雑で、冷房は6月2日から9月21日、暖房は10月28日から4月14日の東京の南向きの木造住宅で、6時から24時に冷房を27度、暖房を20度の設定したときの冷暖房能力総和を消費電力量で割った値となる。
・APF=1年間に必要な冷暖房能力総和/期間消費電力量
 冷暖房の期間も長く、時間も早朝から深夜までとし実際の使用条件に近いとされている。車の燃費が渋滞の市街地を主に走る人と、高速道路の移動が主な人では同じ車でも異なるように、エアコンも外気温、設定温度、使用する時間などが個々に異なるので、効率の高くなるケースもあれば低くなるケースもある。
 エアコン以外の電気による暖房器具は電気を熱に変換して暖房している。電気ストーブ系、ホットカーペット、コタツのエネルギー効率は1だが、エアコンは機種、環境によって3~7倍となることがある。では実測値で確かめてみよう。セラミックファンヒーターと最も実測温度が近いエアコンの設定温度19度の電力を比べると以下のようになる。
 使用したエアコンはマンション購入時15年前に設置した製品で、エネルギー効率は3.64と書いてある。性能劣化や測定条件の差異を考慮すれば約3倍という数値はまずまずで、エアコンの省エネ性を十分表していると考えられる。
●新しいエアコンは省エネ
 最新のエアコン(他の家電品も)は省エネといわれる。最新機種に買い替えるとどれくらい省エネなのか気になるところだ。過去製品も含めスペックを調べてみると、以下のようになっていた。
(※)現在使用中のエアコンが三菱電機製なので2001年以降も三菱電機製で比較した
 1996年製は今回実験に使用した機種。同じ年に発売されたモデルでも高級機と普及機では効率が違ったりするので、2001以降は2機種掲載した。2006年モデルと2011年モデルはエネルギー効率の計算では2006年モデルの方が優れているが、APFは2011年モデルの方が優れている。機種によるが5年前の機種であれば現行品と大きな差はなさそうだ。
 もし筆者宅のエアコンを新しい機種に買い替えると、推測では設定温度19度の実験値は0.17キロワットアワーから0.12キロワットアワーくらいだろう。新しいエアコンを購入したら省エネ=節電になるが、経済的な分岐点を見つけるのは難しい。多くの人が実際にエアコンが消費した電力を把握していないはず。年間でエアコンの実消費電力を測定し、現在使用中のエアコンと新しいエアコンの性能差を計算すれば、ある程度は何年後に分岐点が訪れるか推定できるだろう。
 もう少し分かりやすい例を挙げると、白熱電球とLED電球だ。計算を簡単にするため寿命は無視して計算してみよう。60ワットと10ワットなら消費電力が6分の1であることは簡単に理解できる。白熱電球の単価を50円、年々安くなっているLED電球を1000円とし、電気料金は一般的な22円=1キロワットアワー(数年先はもっと高くなる可能性もある)の単価で計算すると、
・電球の価格差:1000円-50円=950円
・1時間の電気料金の差:(60ワット-10ワット)÷1000×22円=1.1円
・元が取れる時間:950円÷1.1円=864時間
 1日8時間使えば108日(3カ月半)、1日1時間使えば864日(2年半)、1日10分使えば5184日(14年以上)となる。イメージとしては長時間使用する店舗ならすぐに元が取れるが、独身で1日10分しか使わないトイレは、そのアパートに住んでいる間に元が取れる可能性は低い。家族4人で入浴時間が15分の父、40分の娘……というように4人の合計が1時間半なら1年半で元が取れる。
 なお、この計算は節約のための計算だ。エコやCO2削減を主に考えれば、1日も早く省エネな製品に買い替えた方がいい。とはいえまだ使える家電品を数年で廃棄、買い替えするのはやはり「もったいない」。工業製品は製造段階でもエネルギーが使われているので、長く使うことがエコという側面もある。やはりバランスを考えながら買い替えるのがベストだろう。

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