「本当に恥ずかしいと思っている」「タレントの出演は…」ジャニーズ性加害問題でTBS社長の“異例コメント”を安住アナが番組で読み上げた“背景”

〈「ジャニーズが使えなくなったら番組ができなくなる」「視聴者獲得のため」…テレビ関係者40人が語った“ジャニーズ性加害問題”〉 から続く 【画像】カウアン・オカモト氏が撮影したジャニー喜多川氏の自宅風景  9月21日朝、ジャニーズ事務所の性加害問題に関して、TBS「THE TIME,」で総合司会の安住紳一郎アナがTBS社長の記者会見の内容を読み上げる一幕があった。そもそも、テレビ局の社長の言葉をアナウンサーが読み上げるのは異例のことだ。この出来事がテレビ界に与えた衝撃はとても大きい。

社長の“異例のコメント”を読み上げ

TBS「THE TIME,」9月21日放送より

 番組では、主な経済団体の一つである日本商工会議所の小林健会頭がジャニーズ事務所の社名を「変えた方がいい」と指摘し、企業として性加害の事実を認識していた点について、「コンプライアンス上、非常に問題」だと厳しく批判したというニュースを映像で伝えた。  続いて安住アナが「TBS社長の佐々木卓が会見で様々な質問に答えていましたので、いくつか紹介します」と前置きして、番組放送前日の20日に行われたTBSの定例記者会見について、以下の内容を読み上げて伝えた。 ◆ ・9月13日にTBSのコンプライアンス担当役員がジャニーズ事務所の東山紀之新社長に改革を求める要望書を直接手渡して、東山社長と話をした。   ・佐々木卓社長が定例会見で、2004年、性加害の真実性を認定した高裁判決が最高裁で確定した際に、ニュースでジャニーズ性加害問題について取り上げなかったことへの所感を問われ、報道局員数人から聞き取りを行った結果、以下の2点が自分たちの落ち度だと認めた。   →当時、男性から男性へのハラスメントが著しい人権侵害だという認識が乏しかった。   →週刊誌が報じた芸能界のニュースを芸能界スキャンダルと過小評価した判断ミスがあった。 ◆  佐々木卓氏自身も当時報道局で働いており、会見で自らの認識の甘さを認めた。 「人権意識の乏しさ、芸能界のニュースに対する短絡的な見方を思い出すと、本当に恥ずかしいと思っている。報道機関としての役割を十分に果たせなかったことを深く反省している」  ジャニーズ事務所所属タレントの広告起用見直しが相次ぐなか、TBSは「取引企業」の一つとしてどう考えているのか。タレントを継続して起用するのか質問された際の佐々木氏の回答は次のようなものだった。 「現在契約しているタレントの出演は何ら変わらない。今後、人権の尊重に向けて改善していくのか、どう着実に対策を進めていくのかを注視しながら適正に判断していきたい」

社長コメントを「Nスタ」「news23」は報道しなかった

 実はこの佐々木卓社長の踏み込んだコメントについて、TBSは定例会見当日の夕方ニュース「Nスタ」や夜ニュース「news23」では報道していない。通常ならばニュース番組でこそ伝えるべき内容だろう。  9月7日にジャニーズ事務所が性加害の事実を公式に認めた際には、「news23」でTBSの声明を放送していた。 「TBSテレビは、ひきつづきジャニーズ事務所に対して、被害者の救済と人権侵害の再発防止を要望していくとともに、事務所がどう着実に進めていくのかを今後も注視しながら、適切に対処してまいります。TBSグループは人権を尊重する取り組みに、より一層努めてまいる所存です」

安住アナの大きな影響力

 この定例会見での社長コメントについて、9月20日当日のTBSのニュース番組では報道されなかったのに、なぜ翌朝の安住アナの番組で放送したのだろう。そこには安住アナの立場が関係していると筆者は見る。  実は安住アナは単なる社員アナウンサーではない。役員待遇という立場で、社員アナとしては最高位にある。一方で、人気アナランキングでは毎回男性アナでトップを争う存在でもある。それだけに彼の一言が対外的に与える影響は大きい。  ジャニーズ事務所の会見直後はTBSに限らず、テレビ各局が同じようなコメントを一斉に発表して、「テレビの横並び体質」「『マスメディアの沈黙』の背景のひとつ」と厳しく世間から批判された。TBSのコメントも「ひきつづき」や「より一層」といった言葉を使って、「自分たちは以前から取り組んできましたが……」というニュアンスを込めているように見えた。批判の対象になっている「マスメディアの沈黙」という自分たちの問題に言及しない姿勢こそ、テレビへの不信感をますます増幅させる要因と言えるだろう。  安住アナは対視聴者という意味では、社長以上にTBSという会社を代表している顔である。そんな安住アナの“コミュニケーション能力”にあえて視聴者への説明を託そうとしたのではないか。

「検証や改革が足りないと自覚」という安住アナの言葉

 安住アナは社長のコメントを伝えたスタジオで、個人的な思いを以下のように述べた。 「私もTBSで働く人間の一人としてこの社長の会見をしっかり見ましたが、私自身としてはまだまだ検証や改革が足りないと自覚しています。少なくともこの番組の中で皆さんに進捗状況をお伝えしてまいりたいと考えています」  この締めくくりの言葉をどう解釈すればいいのか。「私自身として」という注釈がついているものの、ジャニーズ性加害問題について、「検証や自覚が足りない」と述べている。矛先はジャニーズ事務所だけではない。テレビや自局であるTBSまで含むニュアンスが、「自覚」という言葉に込められていると筆者は感じた。  筆者はテレビ各局・各番組でのジャニーズ性加害問題に対する報道姿勢をウォッチしてきた。その中で、安住アナおよび彼が司会を務める番組は当初この問題を扱うことに及び腰だったことは間違いない。そうした「マスメディアの沈黙」、消極的な姿勢の大きな背景には「大手芸能事務所に対する忖度があった」という旨を、安住アナ自身が9月9日の「情報7daysニュースキャスター」で述べている。以来、彼が司会する番組ではジャニーズ性加害問題について、小さな動きも積極的に報道するように変化を見せている。

NHKに限らず、民放も「自己検証」へ

 NHKは9月11日放送の「クローズアップ現代」で、ジャニーズ事務所の性加害問題をなぜ報道してこなかったのかについて検証していた。この検証は、追及不足で不十分だという批判もあるものの、ジャニー喜多川氏の性加害に関してテレビ関係者がどのような姿勢でいたのか公共放送として自ら検証する姿勢を示した意味は大きい。  この時の「クロ現」でも、1999年に始まった「週刊文春」によるキャンペーン報道などについて言及し、ジャニー喜多川氏の性加害についての記述が真実であると認定された高裁判決が最高裁で確定した2004年前後に、なぜテレビ関係者が報道しなかったのかを中心に検証した。  だが、ジャニーズ事務所とテレビ局の関係には今でも明らかになっていない闇の部分があるのではないか。今後、第2弾、第3弾の検証が求められる。そして、NHK以上に人気タレントを自局番組に起用することが視聴率や利益に直結する民放では、その闇の部分はより深いと筆者は考える。  大手スポンサーのCMなどでのジャニーズ事務所所属タレントの起用見直しはドミノ現象になりつつある。テレビ局も「取引企業」の一つである以上、グローバルなビジネス環境の中で「人権尊重」や「再発防止」への取り組みの姿勢が問われるのは当然のなりゆきだ。今のところ消極的に見える民放各局も「検証」を求められていくはずだ。今後、民放各局でも「自己検証」ドミノの扉が開くかもしれない。娯楽番組や報道番組を抱えるテレビ。自らを検証することがテレビへの信頼回復の道につながるはずだと思う。

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