「東北から調達」で物議/五輪と再生可能エネルギー/東北あすへの針路

 2020年の東京五輪・パラリンピックで、東日本大震災の被災地・東北から首都圏に再生可能エネルギーを調達する環境省の方針が物議を醸している。「自然エネルギー開発の呼び水になる」と歓迎する声がある一方、大消費地に地方がエネルギーを供給する「搾取」の構造を固定化しかねないとの懸念も広がる。
<温室ガス抑制>
 環境省は5日、「東京五輪を契機とした環境配慮」策を発表。東京都市圏で温室効果ガスの排出を抑制するためには、地方からの再生可能エネルギーの調達が必要との考えを示した。
 その中で同省は、一定面積当たりのエネルギー需要量を示す「エネルギー需要密度」の比較を試みている。「東京のエネルギーの需要密度は北海道や東北の約50~60倍」と説明し、福島などの被災地域から「電気を託送して大会会場で使用」する方針だ。
<「資金も吸収」>
 秋田県などで事業を展開する市民風力発電(札幌)の鈴木亨代表は「北海道、東北の豊かな自然を背景とした潜在能力を考えれば有力な提案」と評する。ただし、東京への再生可能エネルギー供給は地元資本が行うのが大前提だという。
 東京にエネルギーを融通すれば「資金が都市から地方に流れ、地域活性化に資する」と、環境省は地方の利益を強調している。
 しかし、メガソーラーや大規模風力発電など、東北の再生可能エネルギー施設は大半が中央資本だ。鈴木代表は「自然エネルギー発電の地元資本率を高める方策を講じなければ結局、資金も東京に吸い取られ、地元には何も残らない」とくぎを刺した。
 福島大の今井照教授(自治体政策)は、温室効果ガス抑制の立論そのものに疑問を投げ掛けた。五輪開催に伴う温室効果ガスの大量排出は、東京自体が自然エネルギーを生み出す方向に転換する以外、根本的な解決にならないと考えるからだ。
<被災地利用?>
 五輪対策を練るに当たって環境省は、環境政策や都市工学の研究者13人に意見を聞いている。だが、その中に「地域外からの再生可能エネルギーの調達」に類する主張は一つもなかった。
 むしろ多くの識者は、東京自体による自立的な対策を求めていた。今井教授は「電力をどう利用するかの決定権は、電力を生み出す地元にあるべきだ。環境省は『被災地』を広報に利用しているだけではないか」といぶかしむ。
 国は五輪開催を機に、福島第1原発事故や東京と地方のいびつな関係性をうやむやにし、エネルギーの需給構造を震災前へと回帰させようとしているのではないか。
 福島県飯舘村の菅野典雄村長は「環境省の提案は、原子力が再生可能エネルギーに置き換わっただけ。私たちは原発事故で大変な思いをしており、違和感を覚える」と話した。
◇河北新報社提言
 【安全安心のまちづくり】
(1)高台移住の促進・定着
(2)地域の医療を担う人材育成
(3)新たな「共助」の仕組みづくり
 【新しい産業システムの創生】
(4)世界に誇る三陸の水産業振興
(5)仙台平野の先進的な農業再生
(6)地域に密着した再生可能エネルギー戦略
(7)世界に先駆けた減災産業の集積
(8)地域再生ビジターズ産業の創出
 【東北の連帯】
(9)自立的復興へ東北再生共同体を創設
(10)東北共同復興債による資金調達
(11)交通・物流ネットワークの強化

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