「東北弁・東北なまりのテープ起こし、お任せください」。こんなコピーの広告がネットで話題になっています。広告主は、仙台市にある専門業者「東北議事録センター」。議事録づくりや音声記録の文字起こしが主な業務ですが、内容を聞くと意外なニーズが見えてきます。

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東北弁に強み「他に聞かない」

広告が載ったのは、日本弁護士連合会(日弁連)が発行する弁護士向け情報誌『自由と正義』。「地方議会会議録で東北一の実績」「法廷提出用の証拠録音で、東北弁・東北なまりでお困りの際は、ご連絡ください」とアピールしています。

ツイッターでは、「東北弁…分からん」「一口に東北弁と言ってもかなり違うけど大丈夫?」「きっと需要あるんだろうな」といった反応が相次いでいます。

方言でも世代間ギャップが拡大

東北議事録センターは1973年に創業。仕事の8割近くは東北の地方議会関連ですが、首長や議員には高齢男性が多く、強いなまりの質疑を正確にテキストに するのは根気がいるそう。代表の花角潤一さん(49)によると、東北の方言を強みにする会社は「他に聞いたことがない」といいます。

今回、弁護士向け雑誌に広告を載せた理由は、集団就職で東北から上京した団塊の世代の親たちが80、90代になり、遺産相続を巡る調停や審判が増えてくると予想したから。

花角さんは「例えば、宮城県南部の80代の方言は、50代後半の(符号を普通の字に直す)反訳者が聞くと起こせますが、40代だと分からない」。同じ地方に住んでいても、お年寄りの方言を孫が聞き取れないことが増えている、と指摘します。

世代間の言葉のギャップ拡大に注目した、ニッチなビジネス。広告を出して、すでに2件の依頼があったそうです。

福島では「海」と「膿」が同じ

実際に録音の文字起こしをするのは、40~60代中心の女性スタッフ。東北6県の方言をカバーしていますが、習熟には何年もかかるといいます。

例えば、福島県のなまりは語尾が上がり、イントネーションがないそう。そのため、「『海』も『膿』も区別されない。福島の人なら文字起こしできるが、他県の人だと起こせない」(花角代表)。

また、「ごしゃぐ」(怒る、叱るといった意味の東北弁)といった独特の言葉は、標準語に置き換えると、細かいニュアンスが消えてしまうそう。このため、極力そのまま起こす工夫をしています。

東日本大震災の聞き語りも

2011年の東日本大震災以降は、被災者のインタビューや聞き語りの文字起こしの注文が増えているそう。普段は標準語に近くても、感情を込めたり興奮したりすると、思わず方言やなまりが出てしまう――。そうした現場でも活躍しています。