「森辞めろ」と叫んだ大新聞 「五輪中止」と書かない各々の立ち位置

五輪・パラリンピック組織委員会会長の職にあった森喜朗氏が「女性蔑視発言」をした際、新聞各紙は挙って批判的な論調を書き立てたが、なぜか東京五輪中止論には及び腰に見える。その背景に何があるのか。「平和の祭典」の不都合な真実を抉る。

【写真】赤白ストライプで胸に五輪マークのネクタイ着用、髪の資料を肩の高さで突き出して女性蔑視問題に答える森喜朗氏

 森氏の辞任騒動のきっかけとなった「女性蔑視発言」の釈明会見を受けて、各紙の社説には厳しい言葉が並んだ。

〈この大切な時期に、お粗末な言動により組織委トップへの不信が増すような事態は、五輪開催への機運や国際的な理解を損ないかねない〉(日本経済新聞、2月5日)

〈そうでなくても懐疑論が国内外に広がるなか、五輪の開催に決定的なマイナスイメージを植えつける暴言・妄言だ。すみやかな辞任を求める〉(朝日新聞、2月5日)

 同様に毎日新聞の社説では〈五輪責任者として失格だ〉(5日)、読売新聞では〈五輪会長として不見識すぎる〉(6日)と言及していた。

 一方で、同じ五輪関連でもなぜか筆が鈍いテーマがある。「開催可否」についてだ。各紙の社説が不思議なほどに中止論に言及しないのである。

〈世界の人が集い、スポーツを通じて平和の尊さを共有することに五輪の意義はあるが、ここは「ゼロ」を含む大幅な観客制限を始めとして、状況に即した合理的な判断が求められよう〉(朝日新聞、1月27日)

〈最優先で検討すべき課題は明らかだ。訪日客も含めた観客制限の可否と、選手や関係者の感染防止策である〉(毎日新聞、1月25日)

 いずれも「どう開催するか」に主眼が置かれている。東京都市大学メディア情報学部の高田昌幸教授が言う。

「1月上旬の共同通信の世論調査では国民の8割が、2021年7月の五輪開催は『中止するべき』『再延期するべき』と見直しを求めているが、その疑問を整理してきちんと論じている社説は私の知る限り見られません。

 開催前提の連載や特集が今も続いており、この状況下で開催機運を盛り上げようとする報道には強い違和感があります」

 森氏への厳しい追及と比べると緩さが感じられる論調には、各紙の置かれた“立ち位置”が関係しているのだろう。

 5年前の2016年1月、朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞の全国紙4紙は東京五輪組織委と「オフィシャルパートナー」契約を結んでおり、東京五輪の「スポンサー」になっている。

 4紙が結んだ契約は3段階に分けられた国内スポンサーの上から2番目のランク(ティア2)にあたり、新聞4社で計50億~60億円を分担して出資したと報じられた。その後、産経新聞と北海道新聞もその下(ティア3)の「オフィシャルサポーター」となった。

 新聞社が五輪の公式スポンサーになったことはなく、今回が初めてのこと。これまでは「公正な報道」の観点から避けられてきた。前出・高田教授が語る。

「報道機関は、税金が大量に投入されるような国家的プロジェクトやイベントのスポンサーになるべきではありません。いくら“公正な報道をする”と言っても説得力がなくなってしまう。世界中のメディアからも批判の声が上がっています」

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