全都道府県の「一時停止率」公表 JAFの思い
JAF(日本自動車連盟)が2018年10月に発表した、「歩行者が渡ろうとしている信号機のない横断歩道で、どのくらいのクルマがルール通りに一時停止しているか」についての調査結果が、各地に影響を与えています。
【表】都道府県別「横断歩道におけるクルマの一時停止率」
同調査はJAFが2016年から毎年実施しており、2017年には一時停止率が最も高い長野県のみ、県名を公表して紹介していましたが、2018年の調査報告ではこれを全都道府県について公表したのです。
「2016年は、一時停止率が全国平均で7.6%という結果でした。2017年は8.5%と、前年から0.9%向上しましたが、2018年は8.6%、わずか0.1%しか増えなかったのです。認識を新たにしていただくためにも、全国の状況を公表したほうがいいのでは、ということになりました」(JAF)
調査方法は、信号機のない交差点を各都道府県で2か所選出し、1か所につき50回、JAF職員が平日の日中に横断し、通過する車両が一時停止するかどうかを調べるというもの。対象とする交差点の基準や、横断歩道における職員の立ち位置などを統一して行ってはいますが、JAFでは「調査場所は各都道府県内で2か所ずつであり、都道府県内すべての市町村の箇所で同様の数値(傾向)とは限りません」と注意書きをしています。
それでも、1位の58.6%(長野県)から、ワースト1位の0.9%(栃木県)まで、都道府県別のランキングが判明した効果は大きかったようです。
栃木県警が作成したチラシ。JAFの調査で一時停止率がワーストだった旨が書かれている(画像:栃木県警)。 「何とかせなあかん」 県警、危機感じわり
「信号機のない横断歩道における車の一時停止率」0.9%でワースト1位とされた栃木県では、JAFの発表を受け県警が「止まってくれない『栃木県』」というスローガンを掲げた啓発チラシを5万枚、ポスターを2000枚作成し、街頭での広報活動などを行っています。
「横断歩道における歩行者保護の徹底は、以前から対策を強化していましたが、JAFさんの発表は、いい契機になりました。課題を広く認知いただくため、『全国ワースト』という結果を逆手にとり、そのような調査結果があることをチラシなどにも盛り込んでいます」(栃木県警 交通企画課)
一時停止率1.4%でワースト3位とされた和歌山県では2019年2月19日(火)、県警の主導で県や近畿運輸局、JAF和歌山支部など関係団体を集め、歩行者優先の徹底に向けた対策会議を開催しました。県警の担当者はJAFの調査結果を受け、「(一時停止率が)低い。何とかせなあかん」と危機感をあらわにします。
「2018年に起きた人身交通事故の4割が歩行中の事故で、かつその大半が歩行者の横断中に起こっており、一時停止率が低いことを裏付けています。県民あげて意識の醸成を図らなければなりません」(和歌山県警 交通企画課)
対策会議では、県トラック協会やバス・タクシーといった旅客事業者と連携し、関係車両に「横断歩行者優先」を伝えるステッカーを貼ることが決められたほか、県交通安全協会と連携し、チラシやポスターも作成済みとのこと。2019年2月からは、地元FMラジオで啓発CMも放送しているそうです。
横断歩道における歩行者優先は「マナー」ではなく、違反すれば罰せられる「ルール」です。栃木県警、和歌山県警とも、口をそろえ「100%守らなければならないこと」と話します。
世界的に見て恥ずかしい状況?
和歌山県と同率でワースト3位(一時停止率1.4%)とされたのが三重県です。県警の担当者によると、JAFの発表内容は県内全ての場所において当てはまるものではないとしつつも、結果を「厳粛に受け止めている」とのこと。
三重県警は2019年度から、県内における横断歩道や「横断歩道または自転車横断帯あり」を示す菱形の路面標示の集中的な修繕に乗り出します。対象となる横断歩道は約2000と、近年で最も大規模になるそうです。
「横断歩道などがすり減っていては、ドライバーの気づきも遅れます。今回の補修計画は各地域から寄せられている修繕の要望も踏まえたものですが、ドライバーに一時停止を守っていただくためにも、規制を明確にすることが有効です」(三重県警 交通企画課)
横断歩行者の保護については、警察庁や国土交通省も力を入れています。警察庁は2018年10月、各都道府県警などへ「信号機のない横断歩道における歩行者優先等を徹底するための広報啓発・指導の強化について」を通達。ここで、2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」開催を控え、「歩行者優先」が定着している国からの訪日者増加が見込まれるなか、横断歩道上での安全確保に向け、速やかに対策すべきとしています。
ちなみに、国土交通省によると、日本では2017年における自動車乗車中の交通事故死者数がG7(日本、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)で最も低い一方、歩行中および自転車乗車中の死者数は人口10万人あたり2.0人と、G7でワーストだそうです。