米電子機器大手アップルは8月24日、最高経営責任者(CEO)のスティーブ・ジョブズ氏(56)が辞任し、会長に就いたと発表した。ジョブズ氏は今年1月から病気療養に入っていた。後任CEOには最高執行責任者(COO)のティム・クック氏(50)が就任した。
ジョブズ氏は24日、アップル関係者に宛てた手紙で「CEOとして責務と期待に応えられない日が来れば、皆さんに知らせると言ってきた」とした上で「残念だがその日が来た」と記した。ジョブズ氏は2004年に膵臓(すいぞう)がんを治療したほか、09年には肝臓移植を受けるなど、病気療養が続いていた。
■ガレージから世界一に
アップルは8月上旬、株式時価総額で米エネルギー最大手のエクソンモービルを抜き、米国企業の頂点に立った。設立からわずか35年。強力な指導力でアップルを率い、アメリカンドリームを実現した人物こそ、ジョブズ氏だった。
1976年に高校時代からの友人だったスティーブ・ウォズニアック氏と世界初とされるパソコンを開発し、自宅の車庫でアップル(当時はアップルコンピュータ)を創業した。85年にパソコン「マッキントッシュ」をヒットさせたほか、2001年に携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」、07年にスマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」を開発し、世界的な人気商品に育て上げた。
類いまれな商才と強力な指導力。印象的な言葉と演出をふんだんに盛り込んだプレゼンテーション。彼の一挙手一投足は製品同様、世界中のファンを引きつけた。
とはいえ、その人生は順風満帆だったわけではない。1985年には社内対立で一時退社し、2004年には膵臓がんを患った。09年と今年も健康問題で休職することを発表、ジョブズ氏の体調がアップルの株価に影響を及ぼすまでになっていた。
「毎日を人生最後の日であるかのように生きていれば必ずひとかどの人物になれる」。ジョブズ氏が17歳の時に出合い、大切にしている言葉だ。この言葉を胸に走り続けたカリスマ経営者は、偉大なる伝説を築き、第一線を退いた。
(SANKEI EXPRESS)
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≪取締役会などに宛てた手紙≫
アップルのCEOとして、私自身がその責務と期待に応えられない日が来れば、皆さんに最初に知らせると言ってきた。残念だがその日が来た。
私はここにアップルのCEOを辞任する。取締役会が適当と考える場合、私は会長、取締役およびアップルの従業員として働きたい。
後継者に関し、事業継承計画を実行し、ティム・クックをCEOとすることを強く薦める。
今後、アップルにとって最も輝かしく、革新的な前途が待ち受けていると信ずる。私は新たな役割でその成功を見守り、貢献することを期待している。
私はアップルで人生における何人かの親友に恵まれ、長年皆さんとともに働けたことに感謝する。
(共同/SANKEI EXPRESS)
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≪「ジョブズ後」不安視する声も≫
ジョブズ氏のCEO辞任で、アップルが今後も好調な経営と革新的な製品開発を持続できるかが最大の焦点になる。米グーグルや韓国のサムスン電子などライバルとの競争も激化しており、世界のIT業界の勢力図にも影響を与えそうだ。
「ジョブズ氏は業界で最も偉大なリーダー。一つの時代が終わった」。米IT大手セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフCEOは辞任のニュースが伝わった後、ツイッター上でこう指摘した。
アップルでは「既に今後数年分の製品計画はできている」(IT業界関係者)とされ、次はテレビ関連の新製品が出てくるとの観測もある。しかし「ジョブズ氏の創造性や先を見通す能力を代替できる人物はいない」(米メディア)と「ジョブズ後」の経営を不安視する見方は根強い。ジョブズ氏は会長としてアップルに残るが、辞任発表後の24日の時間外取引でアップルの株価は一時7%下落した。
後任のクック氏は米IBMや旧コンパックコンピュータを経てアップルに入社、2005年に最高執行責任者(COO)に就任した。生産や販売対応で世界を飛び回り実務面でアップルを支えてきた。クック氏の経営手腕に注目が集まりそうだ。
(ニューヨーク 共同/SANKEI EXPRESS)