ことし最も感動したイベントは、と聞かれたら、ためらいなく答える。
「水曜どうでしょう祭 UNITE2013」
驚異の番組
9月6日~8日の3日間、北海道札幌市の真駒内セキスイハイムスタジアムとアイスアリーナを使って行われたこのお祭りイベントに、連日1万8000人がつめかけた。
全国各地からそこに集まった人たちの共通項はただひとつ。「水曜どうでしょう」という番組が好きで好きでたまらない、ということである。それだけで、みんなが仲間。朝から晩までステージを見たり、屋台でゲームを楽しんだり、うまいものを食べたり、関連グッズを買ったり…。
「水曜どうでしょう」は、1996(平成8)年10月に北海道テレビ(HTB)でスタートしたバラエティー。鈴井貴之と大泉洋という2人のローカルタレントと藤村忠寿、嬉野雅道という2人のHTBのディレクターの計4人がひたすら日本を、世界をチープに旅してゆく。深夜帯の放送ながら18・6%(北海道内)の最高視聴率をマークするなど、人気を獲得した番組は2002(平成14)年9月まで続いた。
不思議なことに、定期放送終了後10年を超えるいまも、この番組は新たなファンを増やしている。番組を再編集したDVDが売れに売れ、300万枚を超える販売枚数を記録、グッズも次々と新たなものを企画して売り出し、トータルで年間およそ20億円にものぼる売り上げを稼ぎ出すといわれる。
つまり、「現在」も、この番組は進行し続けているということだ。
鈴井貴之がタレント事務所の会長になり、大泉洋が人気俳優になったいまも、たまに新しい企画が発表されている。この春に撮影され、「祭り」で3夜分が先行上映されたプログラムも現在、全国25局で放送されるなど、人気は衰え知らずなのだ。
最後の祭り?
8年ぶりに祭りが開かれることが発表され、旅行代理店と提携したパッケージ商品が発売されたのが5月。前回のイベントをDVDで見て、次に開かれるときは必ず参加しよう、と思っていたため、仕事のことも何も考えず、3日間ぶっ通しで見られる大阪からのツアーを申し込んだ。発売1時間後にアクセスしたが、会場に近いホテルに泊まる商品はすでに売り切れ。やや値の張るすすきのに近いホテル宿泊のツアーにすべりこんだ。
当日の飛行機には、イベントに参加する人たちがかなり搭乗していた。番組のTシャツを着ているカップルが、シートの周りにたくさんいたのである。飛行機を降りてバスを並んでいるとき、奈良から参加の若者と話をするようになっていた。彼がこの番組に魅せられたのはごく最近のことらしい。一度見始めると止まらなくなった。それからは番組の歴史を追い続けるように再放送やDVDを見るようになったそうだ。ついには祭りに参加するまでに…。
一度は終わってしまった番組が、こうしていまなお新しい若いファンを増やし続けている、というのは、奇跡といっていい。
祭りは基本的には競技場に設けられたステージの上で、タレントやディレクターが行うイベントを軸に進められていく。そうしたイベントの合間に屋台で食事したり、カタヌキや輪投げをして遊ぶ。あるいは、この祭りのために作られたグッズを買う。初日から売り切れる商品も相次いだ。
連日、午後6時からがメーンの催し。新作をビジョンで流したあと、ファンにアンケートしたこれまでで最も人気のある企画や言葉、キャラクターなどを出演者が発表。エンディングテーマの「1/6の夢旅人2002」を会場みんなで合唱し、大がかりな打ち上げ花火で幕を閉じる。
毎日が感動的なフィナーレのなか、最後の日に藤村Dが言った。「おれ、これでもういいかな、と思ってる」
「どうでしょう」という番組は続くが、祭りはこれが最後になるかもしれない。そう考えたとき、このイベントに参加する決断をしたことに間違いはなかった、と確信した。
「なぜ」を超えて
どうして、こんな風になってしまったのだろう、と思うことがある。気がつけば毎日、家に帰って「どうでしょう」のDVDを見ている。そうした視聴者が多い、ということは、ある種の中毒性のようなものがある番組なのだろう。そんな僕を家人は「まるで新興宗教に入信したようだ」と、からかう。
それについて、これまで多くの分析がなされている。たとえば九州大学の佐々木玲仁准教授の「結局、どうして面白いのか-『水曜どうでしょう』の仕組み」などといった書籍も出ている。イベント2日目に佐々木さんと出演者4人がステージの上でトークしていたこともあって、読んではみたが、個人的には納得のいく回答ではないという感じがした。こうした論理で片付けられない何かがある、と。
簡単な話、僕たちは彼らに憧れているのだろう。とかく息苦しい時代、画面のなかの彼らは本当に仲が良く、そして自由だ。節度を保ちつつ、この閉塞(へいそく)感で一杯の時代に彼らは「仲間とは何か」「自由とは何か」を巧まず表現しているのだ。サイコロを転がしたり、絵はがきを抜いて旅の行き先を決める気ままな男たちの旅。彼らがつらい目にあえばあうほど、ぐちればぐちるほど、僕らは癒やされてゆく。
きっと、番組が続く限り、彼らの旅を見ていることだろう。そして、もし、もう一度祭りがあったら、何年後、何十年後だろうが必ず行く。
空に飛び散るきれいな花火を見ながらそんなことを考えていた、祭りの最後の夜…。