安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから2年がたとうとしている。今、その元首相の“名前”の商標登録の出願がなされている。
《商標 安倍晋三》
《呼称 アベシンゾー》
《出願人 安倍昭恵》
(特許情報プラットフォームより)
出願は昨年の6月のこと(翌7月に商品・役務を追加)。現在は審査待ちだが、この“安倍晋三”の商標登録は審査に通るのか。
審査内容は?
「登録の可能性は高い」
そう話すのは、テックバイザー国際特許商標事務所・代表弁理士の栗原潔氏。どのような審査が行われるのか。
「商標法に定められた拒絶理由があるかどうかの審査です。一般的には類似先行登録の有無などですが、今回のケースでは“他人の氏名にあたるか”(4条1項8号)および“公序良俗違反”(4条1項7号)あたりが問題となるでしょう」(栗原氏、以下同)
昭恵氏は妻とはいえ出願された名前の本人ではないが、それでも登録される?
「4条1項8号は生存中の人物のみを対象としていますので、故・安倍元首相の存在は関係ありません。もし、漢字も含めて『安倍晋三』の同姓同名者がいればその人の承諾が必要になります。同姓同名者がいて、かつ、その人が承諾しないという場合は拒絶されますが、その可能性はきわめて低いでしょう」
使用可否のボーダーライン
亡くなった人物の名前を生きている人物が勝手に商標登録出願してもよいのか?
「歴史上の有名人物を縁もゆかりもない人が商標登録出願すると、公序良俗違反による拒絶の対象になり得ます。亡くなった政治家の例でいうと、比較的最近に『角栄』なる商標登録出願が“田中角栄を認識させる”ということで、拒絶されています」
商標登録を出願した“範囲(商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務)”は、商品では電子出版物、印刷物、食品、かばん類、衣服、衛生品など、サービスはソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の提供などなど、非常に多岐にわたっている。内容から見て、今回の出願の狙いは?
「両出願とも、可能な限り広範囲の商品・役務を指定しており、防衛的な意味合いが強いです。自分で使用するというよりも他人の便乗使用や抜け駆け出願を防ぐためでしょう」
仮に審査が通ったとして、出願人である昭恵氏にどのような「権利」が生まれ、昭恵氏以外の人は安倍晋三という名称についてどのような「制限」を受けるのか。例えば飲食店が“安倍晋三元首相が愛した味”などと宣伝に使うなどはNG?
「昭恵さんは『安倍晋三』という名称を、出願において指定した商品やサービスに独占的に使用できるようになります。無許可の使用を禁止できるとともに、ライセンスにより使用を許諾することもできます。
他の人は『安倍晋三』という言葉を普通に使う分には問題ありません。商標として(商品やサービスの営業標識として)使うことだけが制限されます。“安倍晋三元首相が愛した味”は微妙なところですが、大目に見られるレベルを超えて使われるようであれば、商標権の行使は可能だと思います」
『安倍晋三』という名称は今後、どのように使われていくのか─。