「猫の気持ち知りたい」研究員、注目論文を次々…わが子もかわいいが「猫って素晴らしい」

■麻布大特別研究員 高木佐保さん 31

 「猫は見えない場所に飼い主がいても、心の中で思い描いている」「飼い猫は同居する他の猫の顔と名前を認識している」――。そんな猫の心理に関する研究論文を次々と発表し、注目を集めている。

 子どもの頃から動物が大好きで、「動物の心」に興味があった。親戚が飼っている犬と触れ合うことが楽しみだった小学生のある日、「私は頭の中で考えるときは日本語を使うが、犬は何語で考えるのだろう。ワン、ワンと考えるのかな」と不思議に思ったが、誰に尋ねても納得できる答えは返ってこなかった。

 人の行動原理を研究したくて、同志社大学の心理学部へ進学。当時は動物の心を調べる学問があるとは知らなかった。同大でも教鞭(きょうべん)を執っていた藤田和生・京都大学教授の「比較認知科学」の授業に出会い、動物の心を実験や観察を通じて科学的に解き明かせることに衝撃を受けた。

 「こんな研究をしてみたい」。すっかり藤田教授の授業に魅せられ、京都大大学院を目指す。その頃、築約100年の京都の実家にネズミが出没したため猫を飼うことになり、生後2か月のメス猫「ミル」がやってきた。動物を飼うのは初めてで、うれしくてたまらない。授業後は家へ飛んで帰り、ずっと一緒に遊んだ。猫の自由奔放さがすっかり気に入ってしまった。

 藤田研究室では本格的に猫の心理学を研究した。一つの実験に30~50匹の猫が必要で、チラシで協力を呼びかけたり、猫カフェにお願いしたり。応募があれば姫路まで出向いたこともある。「大変だけど、猫の気持ちを知りたいという思いの方が強かった」

 最初に手がけた実験は「猫は音から物体の有無を予測できるか」というもの。実験装置はすべて手作り。猫の前で不透明の箱を振り、ひっくり返した際に物体が落ちる、落ちないという条件の操作を行い、猫が音から物体の存在を推理できるかを調べた。その結果、音でモノの存在を想像していることが分かった。

 「猫は思い出を持っている」という研究論文も発表。二つとも高い評価を受け、京大総長賞を受賞した。

 現在は日本学術振興会の特別研究員として麻布大学(相模原市)で研究に励む。「猫が大好きで、猫の気持ちが知りたい。人間と猫の関係性は、知識がある方が良くなると言われている。共生関係が良くなるような研究を続けていきたい」と抱負を語る。

 神奈川県で暮らすようになってから、どうしても我慢ができず、3年前に2匹の猫を飼い始めた。その年の夏には同級生と結婚。もうじき2歳になる長女がいる。子どもができてつくづく思うことがある。「手間をかけた分、子どもはかわいいが、猫は手間をかけなくてもかわいい。猫って本当に素晴らしい生き物だと思う」。そう言ってほほ笑んだ。(鈴木英二)

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