お願いです。高く買わないでください。
これは、日本酒「獺祭」を製造する酒造メーカー、旭酒造(山口県)が12月10日の読売新聞に掲載した全面広告の文言だ。適正価格での購入を呼び掛けるメッセージに対して、インターネット上で議論を呼んでいる。
広告では、桜井一宏社長の名前で冒頭のメッセージを大きな文字で掲載。主要商品のメーカー希望価格(税込)を示した。そして、紙面の半分以上を割いて、全国約630店舗の正規取扱店の名称を並べた。
同社によると、新聞広告を出したのは初めてだという。なぜ、これまで出さなかった広告を使ってまで、適正価格による流通を訴えたのか。
●希望価格の2倍、3倍も……
旭酒造は、量を売るための酒ではなく「味わう酒」を目指して獺祭を開発。従来の酒造りにこだわらない製造方法などによって徹底された品質が大都市の市場で徐々に認められ、ブランド価値を高めた。海外市場の開拓にも力を入れている。
しかし、現状を見ると、全国のスーパーや酒屋の中には、正規取引店ではない業者から、メーカー希望価格の2倍、3倍の価格で獺祭を売りつけられている店舗も多いという。旭酒造は、酒造りのコンセプトに賛同してくれる店としか正規に取引しない。それは、消費者に届くまでお酒の品質をしっかりと維持するためだ。そうすると、正規ルートで仕入れることができない業者も多く、ブランドの人気向上とともに、「転売」も横行する事態となった。
その結果、被害を受けるのは、メーカー希望価格を知らない消費者だ。広告によると、「純米大吟醸50」の希望価格は720ミリリットル入りで約1500円。「純米大吟醸 磨き二割三分」は約5100円。獺祭の知名度は高くても、相場を知らないと「こんなものか」と割高商品を購入してしまう。
2016年に虫の混入で商品を回収したときには、旭酒造が着払いで返品を受け付ける対応をしたが、2480円の商品を「スーパーで1万円以上で買ったからその金額を返せ」と要求されることもあった。
一方、メーカーが小売価格まで決めることはできない。不当に高い価格で売っている業者に問い合わせたことがあるものの、「弁護士と相談している」と回答にもならない言葉が返ってきたという。
同社は今後も「お客さまに良い状態の獺祭を販売できる能力を持つ酒屋さんだけに取引先を絞る」という方針を変えるつもりはない。この方針は門戸を狭めることになりかねず、非難されることも多いという。しかし、「良い品質で飲んでもらいたい」という願いを優先させてきた。
その方針によって、正規取扱店やファンなど、獺祭を愛する人たちが不利益を受けるという事態があってはならない。それが広告に込められた思いのようだ。