「理想の上司」で急上昇 中居正広さんの褒める力

今年も明治安田生命保険相互会社が2017年春に入社する新入社員を対象とした「理想の上司」アンケートの調査結果を発表しました。この調査は「バラエティ」「スポーツ選手・監督」「俳優・歌手」「文化人」の4部門からそれぞれ理想の上司を選出し、そのなかから理想の上司の総合No.1を決める方式となっています。
理想の男性上司ランキングの1位は、バラエティー番組の司会などで見せる「親しみやすい」キャラクターが支持された内村光良さん。また、理想の女性上司ランキングでは、7連覇中だった天海祐希さんを抜いてアナウンサーの水卜麻美さんが初の1位に輝いています。水卜さんも「親しみやすい」「明るい」という評価から、男女問わず高い支持を得たようです。
2016年の1位は、理想の男性上司が松岡修造さん、理想の女性上司が天海祐希さんでしたので、どちらかというとリーダーシップや頼もしさを支持する新入社員が多かったようですが、2017年はむしろ、親しみやすさや優しさを上司に求める若者が増えたと言えそうです。
このアンケート結果を話題に取り上げたテレビ番組『ワイドナショー』でも、レギュラー出演者の松本人志さんが、「最近の若い人は叱られたくないんやろなぁ……。若いADを怒ってるのも見なくなったし……」とコメントしていました。

■俳優・歌手部門で中居さんが1位に

 そんななか、私が個人的に注目したのは「俳優・歌手部門」です。この部門で昨年1位の阿部寛さんを抜き、今年の1位に輝いたのは、元SMAPのリーダー・中居正広さん。その理由は「親しみやすい」をトップに「指導力がある」「実力がある」と続き、昨年のランク圏外から急上昇しました(全体でも8位)。
中居さんの「実力がある」という理由を見て、私はある音楽番組のワンシーンを思い出しました。それは昨年7月16日に放送された『音楽の日』というTBS系の生放送の音楽番組で起こったハプニングシーンです。
歌手の平井堅さんが「魔法って言っていいかな?」を歌い始めた際に、音響トラブルが発生、「すいません、音が出ない。ごめんなさい」と歌うことやめてしまったのです。
この状況に対し中居さんは、「確認してからにしましょうか。大丈夫ですよ、編集でバッサリいきま…あ!」と笑いを取るコメントで即座に対応したのです。
この、トラブルへの瞬時の対応力は本当にお見事でした。さらに平井さんが歌う前のトークコーナーで、『ザ・ベストテン』の大ファンだったとコメントしていた話題に触れ、「ザ・ベストテンでもこういうことがあったと思いますよ」とのコメントでつないだのにはさらに感心しました。
平井さんが改めて美しい歌声を披露した後、中居さんが「テレビをご覧のみなさま、そして平井堅さん、大変申し訳ございませんでした」と謝罪すると、平井さんは「とんでもございません」と笑顔で返しました。このやりとりは強く印象に残っています。

■自分のことを見て褒めてくれているか

 調査で中居さんを評価する2番目の理由に挙げられたのが「指導力がある」です。松本さんがコメントしていたように、いまの若手社員は叱られるのが苦手です。その部下を伸ばすためには上司の「褒め方」が重要になってくるのかもしれません。
ところが、この褒めるという行為はとても難しいと思うのです。根拠なしに褒めてもそれは単なるお世辞になってしまいます。
英語ではお世辞やおべっかは「flattery」、褒め言葉や賛辞は「compliment」と区別されています。人は前者の「flattery」をいくら投げかけられても、心に響かずシラけてしまうもの……。後者の「compliment」の言葉を投げかけられると、自分をしっかりと肯定してもらえたように感じるものです。
褒められて本当に嬉しいのは、自分のことをちゃんと見てくれている、評価してくれているという裏付けのもとに、根拠のある褒められ方をした時です。
中居さんは自然体でこの「compliment」を伝えられる人なのでしょう。2つのエピソードで中居さんの褒め方に注目したいと思います。
1つは、「東京ドラマアウォード2014」にて主演女優賞に輝いた満島ひかりさんを取り上げた『ワイドナショー』のなかでのことです。中居さんは満島さんのことを「(満島さんは)ふわっとした評価を得るために演技している感じではない女優さんですよね。生半可な芝居はしていない」と、褒めていたのです。
「ふわっとした評価を得るために仕事をしていない」。大先輩からこんな本質的な褒められ方をしたら、きっと本人は嬉しいだろうなぁ……と感じたことを覚えています。
また、中居さんよりも年上になりますが、俳優の柳沢慎吾さんも昨秋に放送されたトークバラエティー番組『KinKi Kidsのブンブブーン』のなかで、中居さんから褒められたエピソードを明かしています。中居さんが「慎吾さんってブームはあんまりこないんですけど、ずっと第一線でいますよね。この業界、第一線でい続けるってすごいことですよ」と、称賛してくれたのだそうです。
柳沢さんはこの中居さんからの言葉がとても嬉しかったようで、涙を拭くフリをしつつ「中居も俺のこと、ちょっとは認めてくれたかも」とまとめ、満面の笑みを浮かべていたのです。こちらもとても印象的でした。
最近では年下の方と一緒にお仕事をする機会が増えてきた私も、中居さんを見習って、できる限り「compliment」を伝えられる大人でありたいと思う次第です。
鈴木ともみ(すずき・ともみ) 経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。

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