「理由分からず減った」政府も想定外 「第6波避けられない」の声も

 菅義偉首相が、緊急事態宣言と「まん延防止等重点措置」の全面解除に踏み切った。退任を前に新型コロナウイルス対応に区切りをつけ、次の政権に引き継ぎたい考えだ。冬の「第6波」の到来も予見される中、政府と自治体は、感染対策と日常生活の回復の両立をめざすが、課題も多そうだ。

 宣言の全面解除を決めた後の28日夜、首相が記者会見で強調したのは、新型コロナウイルスとの「共存」だった。

 「これから新型コロナとの戦いは、新たな段階を迎える」。そんな考えを示したうえで「ウイルスの存在を前提とし、感染対策と日常生活を両立していくことが重要だ」と訴えた。自ら旗を振ったワクチン接種について、「いまや効果は明らかだ。明かりは日々輝きを増している」と語り、成果を誇った。

 政府は今後、行動制限を段階的に緩和していく方針だ。飲食店に対する営業時間の短縮要請などは残すが、宣言などに基づく罰則付きの規制はなくなる。首相側近は「あと1カ月早ければ、政権もこういう終わり方をしなかったかもしれない」とぼやいた。

 感染状況の急速な改善は、政府にとっても想定外だった。官邸幹部は「半月前は、感染が再拡大する地域もあると思っていた」と話す。「理由がよく分からず感染者が減っている」(田村憲久厚生労働相)との声もあるが、首相は周囲に「やはりワクチンだ」と、感染の抑制効果への自信を語る。

 政府は今回、さらなる制限緩和のための対策も打ち出した。その一つが、10月上旬から始める「実証実験」だ。

 専門家らは「冬場の第6波は避けられない」との見方を示す。政府は、再び宣言などを出す事態になっても、接種証明や陰性証明を活用し、行動制限の緩和を維持したい考えだ。このため、飲食店やイベント会場などで客に接種や陰性の証明を確認する実験を行い、利用後に感染者が出ないか追跡調査などを行う。この結果などをもとに、宣言下でも「日常」を維持するための仕組みを検討する。

 実験には課題が多いが、コロナ対応にあたる幹部官僚は「官邸から早く具体的な計画案を取りまとめるよう急がされている」。衆院解散・総選挙をにらみ、「コロナ対応をアピールしたいのではないか」(幹部官僚)との声も漏れる。(西村圭史)

タイトルとURLをコピーしました