地方移住のブームが巻き起こって久しい。従来、地方移住といえば仕事をリタイアした人の第二の人生としての選択肢であり、職場の現役選手たちにとっては縁の遠い話であった。
しかし、「ロハス」や「QOL(生活の質)」といった考えが定着すると共に、コストをかけずに良質な住環境や食生活を手に入れることができる点に魅力を感じる若者が増えている。
2014年8月、内閣府が実施した「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」によると、自分の居住している地域を「都会」「どちらかといえば都 会」と回答した478人に対して「地方に移住してもよいと思うか」を聞いたところ、「思う」「どちらかといえば思う」と回答した割合は39.7%で、4割 近くに上った。
特筆すべきは、20~40代という比較的若い世代が、地方移住に肯定的である点だ。各世代、「地方に移住してもよいと思う」と回答した割合は過半数に達している。
しかし、働き盛りの世代が実際に移住を考えた時に大きな壁となるのが、仕事である。現に、地方は都会に比べて職種の選択肢が狭く、賃金も相対的に見て低 い。「田舎=仕事がない」というイメージが定着しているのも、仕方ないだろう。ところが、全国には「住」でも「食」でもなく、あえて「仕事」を売りにU ターン、Iターンを募る自治体が出てきている。
●福岡県福岡市
ひとつ目が、移住支援の盛んな地域として全国から注目を浴び ている、福岡県福岡市だ。安倍晋三政権の成長戦略の要ともいえる「国家戦略特区(グローバル創業・雇用創出特区)」に認定されている同市では、昨年度に 「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」という、クリエイター向けの移住プロジェクトが発足した。
これは、実際に2カ月間、同市で居住および就労する機会を与えるというもので、全国から15人の男女が市内の企業でOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング/職場内訓練)を受けた。
また、同市では移住希望者のための情報提供の場として「#FUKUOKA(ハッシュフクオカ)」というニュースサイトを開設した。同サイトでは、前出のプ ロジェクトの経過報告やイベントレポートをはじめ、実際に移住して働く人のインタビューなども掲載、“移住のリアル”が語られている。
「クリエイティブキャンプといったプロジェクトをはじめ、市が本格的に移住に力を入れ始めてから、『福岡市なら、やりたい仕事ができる』という空気感が徐々にできつつあると実感します」
そう語るのは、同市で企業の誘致や移住支援に携わる、経済観光文化局創業・立地推進部企業誘致課の山下龍二郎氏だ。確かに、これだけの手厚いサポートがあれば、移住後に自分が働く姿をイメージしやすいだろう。
「移 住する人の増加に伴い、確実に福岡市への人の流れができており、最近では企業から『支社を作れないか』といった問い合わせもあります。今後も、市への移住 や移転の波を大きくしながら、ゆくゆくは福岡市をITやデジタルコンテンツ産業の開発拠点のような場所にできればと思っています」(山下氏)
●宮崎県日南市
まだ36歳の崎田恭平市長が旗振り役を務める、宮崎県日南市。ここでも、市が民間からの人材募集を行うという、興味深い取り組みを実施している。公募しているのは、同市の飫肥(おび)エリアの空き家対策に取り組む「まちなみ再生コーディネーター」だ。
同地区は伝統的な建造物が立ち並び、小京都のような景観で知られる県内の観光地のひとつだ。しかし、地区の中心部にある国の伝統的建造物群保存地区内には、空き家となってしまっている建物も少なくない。
「カ フェや観光案内所など、空き家をどう活用するか、コーディネーターの考えに期待しています。ノウハウのある民間人を外部から登用することで、“よそ者”視 点をうまく取り入れた街づくりが進むのではないでしょうか」と、同市商工観光課マーケティング推進室の田鹿倫基氏は語る。
とはいえ、最近は自治体が外部の人間を公募すること自体は、そう珍しいことではない。しかし、同公募の驚くべき点は、その月給だ。コーディネーターへの委託料(給与)は、月額で約66万円になるという。
同市は13年にも、空き店舗の目立つ商店街を活性化させる「テナントミックスサポートマネージャー」を月額約90万円の委託料で公募し、福岡県から人材を採用した経緯がある。
「そ の際に採用が決まったマネージャーも、はじめは手探り状態の中で商店街の活性化に取り組んでいましたが、徐々に街に人やアイディアが集まり始め、『日南が なにか面白いことをやっている』という空気感をつくってくれました。今回の公募で、また日南に新しい風が吹くことを期待したいです」(田鹿氏)
まちなみ再生コーディネーターは6月26日まで募集しており、採用期間は今年8月から18年3月までの2年8カ月だ。
地方創生が叫ばれる昨今、「移住したい」と思われるには、まずその土地で「働きたい」と思われるような地域づくりが必要不可欠だろう。福岡市や日南市のよ うに、自治体が率先して音頭をとることで、「田舎=仕事がない」という固定概念も徐々になくなっていくのかもしれない。
(文=田代くるみ/ライター)