「直接、店員に伝えれば3秒で終わるのに」 急増する「QRコードで注文」問題…ネットニュース編集者でも「オーダーするまで数分かかりました」

QRコードで注文、使いやすいか?

 先日、地方の取材で、移住者が開業したという喫茶店を訪れる機会があった。テーブルにつくと、店員が水を運んできて、「注文はこちらのQRコードを読み取り、スマホを使って行ってください」と言われた。なんと、地方でもこうした注文方法が普及しているのかと驚いた。そして、めちゃくちゃ注文までに手間がかかった。というのも、山の麓にある店なので、スマホの電波状態が良くないのだ。

【写真】便利? 面倒? 急増する“読み取り注文式飲食店” の客席に貼られたQRコード

 店員から、店が設置しているWi-Fiに接続のうえ、注文するように促された。ところが、この店のWi-Fiに繋ぐには、パスワードの入力が必要である。アルファベットや数字をHye7waqw……といった具合に複雑に組み合わせたもので、入力がかなり面倒であった。ようやく接続したものの、いまいちWi-Fiの効きが悪いのか、スマホ画面がスムーズにスクロールしない。結局、店員を呼んで、口頭で注文する羽目になった。

急増するモバイルからの注文

 近年急増しているのが、こうしたスマホから注文するタイプの飲食店である。今回のような洒落た雰囲気の地方の喫茶店はもちろん、都心の居酒屋にも増えている。最近では新規開店した店で最初から導入されていることがあるし、既存店もリニューアルを機に導入するケースもある。都心では、いわゆるコロナ騒動下において、人と人との接触機会を減らそうという政府の号令のもと、じわじわと普及した印象を受ける。

 導入が進む背景には、飲食業界の深刻な人材不足も関係しているのだろう。また、地方の個人経営の飲食店はワンオペであることも多い。オーナー兼シェフなら、料理を作ることに集中したいはずだ。少しでも注文をとる手間を省きたいという思いもあるのだろう。ところが、この注文システム、本当に店側の負担を減らすことに繋がっているのか、疑問を感じることが多いのである。

3秒で済んだ注文が数分かかる

 以前に、筆者はデイリー新潮で吉野家のタブレットが使いにくいと不満を書いたことがあるが、このQRコードを読み取ってスマホで注文するシステムも、なかなか使いにくい。確かに、店が混雑して店内に笑い声が飛び交っているときなどは、店員を「すみませーん」と呼んでも聞き取ってもらえなかったりするので、スマホの注文システムは重宝かもしれない。

 しかし、とにかくスマホを持っていることが前提のシステムなので、第一に高齢者には優しくないのである。しかも、地方は言うに及ばず、都心の雑居ビルに入居している店などでは電波状況が悪い時がままある。そんな時はWi-Fiに繋ぐ必要があるのだが、パスワードを入れたりする作業があるので、無駄に時間がかかる。しかも、会計まですべてのプロセスがスマホ内で完結するようにはできていないのだ。

 東京のある飲食店を利用した際もとにかくWi-Fiの効きが悪く、注文がうまくできなかった。どうやら、筆者のグループが座っているテーブルと、隣のテーブル付近は建物の構造の問題なのか、Wi-Fiの電波がうまく入らないらしい。店員から「使いにくいですよね、すみません。この席はいつもこうなんです……」と言われた。同様のトラブルがずっと続いているらしいのに店側が改善しないため、謝罪しなければいけない店員が気の毒に思った。

 また、吉野家のタブレットでは看板メニューの牛丼がトップページになく使いにくかった(なお、記事が出てから改善され、今では牛丼がトップページに置かれている)が、ある店は居酒屋なのになぜか中ジョッキが最初の画面になかった。そのせいか、「生3つ!」と口頭で伝えれば3秒で済んだ注文が、スマホの操作をするので何分もかかる。こうした事例は何度かあった。

理想は「サイゼリヤ」

 スマホを使った注文システムは、便利な場面が多いのも事実だ。注文の一覧が表示できるので、注文漏れがあればすぐにわかる。割り勘をするときも、人数分で割った金額を提示してくれることもある。さらに、注文を口頭で受ける従来の居酒屋では、店側がインチキな会計をしているのではと疑心暗鬼になることもあるかもしれないが、とにかく履歴が表示されるので安心感がある。

 それでも、システムがまだまだ発展途上で不完全であり、検討の余地がある。例えば、ある店ではスマホの注文画面に「水」がなかった。水が欲しい場合は、店員を呼んで「水をください」と言わなければいけない。水こそ、スマホ画面から注文できるようにしてほしいものだ。そして、Wi-Fiはどうにかしてほしい。できれば長々としたパスワードを入れなくても、すぐに接続できるようにできないものか。

 筆者は、現時点で最強の注文システムは「サイゼリヤ」ではないかと思う。サイゼリヤはテーブルに紙のメニューがある。食事ごとに番号が振られており、テーブル備え付けの用紙にボールペンで番号を記入する。記入後は呼び出しベルで店員を呼ぶ。店員は「ご注文を繰り返します。ミラノ風ドリア、ドリンクバー……以上でよろしいでしょうか」と確認してくれる。

 紙に書く程度なら楽だし、何より店員が注文を復唱してくれるので安心だ。最近、サイゼリヤではセルフレジが増えてきているが、伝票を読ませるだけなので簡単である。スマホを持っていなくても使えるので、電子機器を使い慣れていない高齢者や、スマホを忘れてしまった人にも優しい。さすがはサイゼリヤだと感心するほど、非常に良くできたシステムだと思う。

せめてWi-Fiの環境は見直してほしい

 ところで、最近では紙のメニューすらない飲食店も多いのだが、果たしてこれは店にとっても良いのだろうか。スマホやタブレットは画面が小さいため、視覚的な部分で紙のメニューに劣る。料理の写真を大小並べて印刷した紙のメニューのほうが、店側が推し出したい料理がわかりやすいし、何より見ていて楽しい。小さい画面では、注文の機会を失っているのではないかと思うのだが、どうだろう。

 個人的には、ファストフードではないレストランは、あまり電子機器に頼り過ぎずに、客との交流を大切にしてほしいと考える。なんでもかんでもスマホを前提にシステムを作るのは、いかがなものか。

 労働人口の減少に伴い、人材の確保が難しい時代において、スマホやタブレットは飲食店に欠かせない存在になると思う。店側も負担を減らしたいという思いで、導入しているのだろう。筆者もそれには理解を示すし、致し方ない面のほうが多いと感じる。しかし、導入するからには操作性をもっと検討してほしいし、何よりWi-Fiを何とかしてほしい。Wi-Fiはパスワードを入れなくても使えるようにしてほしいものだ。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部

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