お金持ちになりたい人は多いのに、お金持ちについて知っている人は少ない――。平均資産が30億円に上る超富裕層を顧客にプライベートバンク事業を展開するアリスタゴラ・アドバイザーズ会長の篠田丈氏に「本物のお金持ちの生態」を聞く短期集中連載。第4回のテーマは富裕層の節税。海外移住してまで「税逃れ」に励む富裕層は、不幸な後半生を送ることになるという。数多くの富裕層を相手にしてきた資産管理のプロが教える「お金より大切なもの」とは? (構成/田之上 信)
高すぎる相続税は日本にとって「大きな損失」だ
日本の相続税は非常に負担が大きいです。欧州は日本に比べて富裕層の相続税率が低く、ゼロの国もあります。
日本の相続税の最高税率は55%ですから、半分以上が取られてしまいます。1000億円の資産があっても450億円しか残りません。節税対策などを何もしなかったら、次世代、次々世代とどんどん資産が減り、富裕層からあっという間に転落してしまうのです。
私は個人的に相続税をもっと低くして、欧州のように富裕層が社会貢献してくれるようになるほうが望ましいと考えています。
日本の相続税負担が大きい結果として、実は多くの富裕層や会社経営者が海外に出てしまっています。代表国がシンガポールです。最大の理由は税制の優遇で、シンガポールには相続税や贈与税がありません。
ただ、日本政府も相続税逃れの対策をしており、相続税法の「10年ルール」というのがあります。これは家族全員で海外に移住しても、10年未満ならば海外に移した資産の相続税や贈与税が課せられるというルールです。逆に言うと、移住期間が10年を越えれば、海外に移した資産に関しては、原則的に日本の相続税や贈与税を課せられないということです。
以前は「10年ルール」ではなく「5年ルール」だったのですが、富裕層を海外に逃さないために、ルールが厳しくなりました。
こうした事態が起きているというのは、大きな損失だと思います。本来は富裕層に日本いてもらって、ビジネスや消費といった経済活動をしてもらったほうがいいのです。
税逃れで海外移住する富裕層「第二の人生」の哀れな実情
アリスタゴラ・アドバイザーズ会長の篠田丈氏 Photo by Wataru Mukai© ダイヤモンド・オンライン
ただ一方で、税金対策でシンガポールなどに移り住んだ富裕層が幸せに暮らしているかというと、必ずしもそうではない現実があります。
最大の問題は言葉です。シンガポールの公用語は英語です。英語が堪能な人は現地でビジネスをはじめるなど好きなことができますが、英語が話せないと活動範囲が日本にいたときより狭まります。
たとえば、昼は日本人とゴルフをして、夜は日本人ばかりが集う和食レストランで食事をする。それを10年以上続けないと、相続税の免除対象にならないのです。
もちろん、海外に移住しても、一時帰国は認められています。年間180日以内までは、税法上日本に居住したことにならないルールになっています。ですから、そういう海外移住した富裕層は頻繁に日本に帰国しています。そして滞在日数を数えながら日本で暮らしているのです。