サラリーマンの09年平均給与406万円。前年から過去最高の下落額となり、あらためて給与破壊が進んでいる事実が浮き彫りになった。(バックナンバーはこちら)
■「給与破壊」の厳しい現実が到来
会社員の09年平均給与は、およそ406万円。前年に比べると24万円近い減額で、過去最高の下落額だった。日本の会社員の給与はこのまま下降し続けるのか。回復軌道を描く可能制はあるのか――。
国税庁の『民間給与実態統計調査』によれば、民間企業に勤務する4505万人(平均年齢44・4才、平均勤続年数11・4年)に支払われた、09年の給与総額はおよそ182兆円だという。具体的にイメージできないほどの巨額だ。ただし、1人平均にすれば405万9000円。内訳は給料手当350万円、賞与 56万円である。読者の給料は、この全国平均と比べてどうだろうか?
09年の約406万円は、前年平均の429・6万円からは23万 7000円の下落。国税庁の調査が始まったのは1949年だが、過去にこれほどの減額はなく、ピークだった97年の467万円からは61万円以上のダウン。世紀をはさんだ10年以上を経て、日本の会社員の給与は月々5万円ほど下がっている実態が明らかになった。
給与破壊ともいうべきこの厳しい現実。リーマンショックを契機に日米欧が同時不況に陥り、海外展開を加速させている製造業を中心に業績を悪化させたことが背景にあることはいうまでもない。個々の企業で実態を見ていこう。
製造業、人件費減額の背景に「残業カット」
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製造業の場合は、製造現場に携わる人の人件費(労務費と呼ばれる)と、販売管理部門の人件費は別立てで計上される。たとえば、わが国トップのトヨタ自動車の場合、労務費は約6000億円、販売管理部門の給料手当は1270億円規模である。
新日本製製鉄はそれぞれ、1400億円強、170億円といったところだ(いずれも単体ベース)。これら労務費や販売管理部門の給料手当の推移と、従業員平均給与は密接に連動していることはいうまでもない。とくに、各社とも製造現場部門の労務費の落ち込みが目立つ。
赤字体質からの脱出が急務の日立製作所。同社の従業員年間給与平均はこの3年間、「747万円→755万円→700万円」で推移。07年度から08年度にかけては上昇、そして09年度は前年度比で下降と、結果的に2年間でおよそ50万円のダウンになっている。
これは、「2497億円→2541億円→2195億円」という労務費のアップダウンと同様の推移。組織再編で従業員が減少、販売管理部門の人件費もマイナスになっているが、労務費の大幅な減額が平均給与を押し下げた主な要因といっていいだろう。
この2年で日立は労務費総額を約300億円減らしている。派遣社員などを除き、仮に従業員3万人として計算すれば、1人当たり100万円のダウンに相当。平均給与の減額をはるかに上回る数値である。ボーナスのダウンはもとより、製造不況による現場部門の残業カットや、休日出勤の減少が背景にあることは明白だ。
07年度の平均給与862万円が、09年度は716万円と、この2年間で150万円近いダウンになっているのはキヤノンだ。同社の場合は販売管理部門、とくに研究開発部門の人件費の減額が大きく響いているようだ。
キヤノンのように、研究開発費の内訳を明らかにする企業は例外的な存在。キヤノンは09年度の研究開発費約3000億円のうち、研究材料費534億円、給料手当766億円だったことを開示している。研究開発費総額に占める給料手当の割合はおよそ26%だった。
その研究開発部門と販売管理部門の給与手当合計は、09年度1283億円。07年度の1376億円からおよそ100億円の減額。平均給与の大幅ダウンも当然の流れだろう。
王子製紙は労務費、販売管理部門の給与手当とも右肩下がり。それにともない、平均給与も減額となっている。
ブリヂストンやコマツ、ファナックの給与推移は?
これからの日本人の給与を考える意味で、ブリヂストンやコマツ、ファナック、さらに東京電力・東京ガス・JR東日本の給与推移も見ておこう。
産業用多関節ロボットや工作機械用のNC(数値制御)で世界トップクラスを走るファナック。同社の従業員平均給与は1000万円超と、製造業としてはトップクラスを誇っていたが、09年度はおよそ800万円。この2年で200万円に迫るダウンである。
建設機械で米キャタピラーに次ぐ世界的ポジションを磐石にしているコマツや、タイヤ世界トップのブリヂストンも同様の傾向だ。
じつは、ブリヂストンやコマツ、ファナックは、多額の赤字を計上してきた日立製作所や赤字基調からの脱出が急務のパナソニック、ソニーなどとは対照的に、リーマンショックによる大幅な売上減少という逆境を乗り越え、黒字経営を維持してきた代表的な企業。
ファナックにいたっては、この2年間で売上高を連結ベースで46%、単体では56%と大幅に減少させているが、それでも黒字を確保するなど強靭な企業体力を示してきた。そのファナックやコマツ、ブリヂストンにしても給与ダウンは免れなかった。
黒字決算でも従業員の給与は上がらない、いや賃金は上がることなくむしろ下がる。そんな厳しい近未来の暗示でなければいいのだか……。
なお、国税庁の『民間給与実態統計調査』によれば、業種別トップは630万円の「電気・ガス・熱供給・水道業」。全業種平均を220万円以上も上回る。その代表的企業である東京電力や東京ガスの給与は、ほぼ横バイでの推移。鉄道事業のJR東日本を含め、社会公共インフラを運営展開している企業は、給与も安定飛行といったところのようだ。