「緊急事態宣言」は百害あって一利なし!? 都の病床使用率50%目前も…発令なら2万3000人解雇の〝大失業時代〟突入か

新型コロナウイルスの感染拡大は続き、東京都の1月31日時点の病床使用率は49・2%と、緊急事態宣言発令を検討する基準の50%が目の前だ。首都圏、東海圏、関西圏に宣言を発令すべきだとの声も出始めた。岸田文雄首相は現状では否定的だが、今後も感染者が増え続ければ、積極論に押されることも考えられる。再発令となった場合、景気や雇用への悪影響が懸念される。

都の病床使用率は49・2%まで上昇したが、都の基準での重症者用病床使用率は5・1%にとどまる。小池百合子知事は緊急事態宣言について「繁華街の夜の滞留人口は抑制されている。病床は重症、中等症など中身もあり、総合的に検討する」という立場だ。

大阪府では31日時点の病床使用率が73・6%、重症病床の使用率は9・8%だが、ほかに重い疾患などを抱えるため重症病床で治療している患者を含めると15・4%に跳ね上がる。吉村洋文知事は「実質の重症病床の使用率が40%に達したときに要請すべきだと思っている」と明言した。

積極的なのが愛知県の大村秀章知事で、首都圏、東海圏、関西圏で「足並みをそろえて緊急宣言で一気に抑え込む必要がある」と述べた。「週半ば以降にも宣言発動を視野に対応していく」というが、愛知が先行して国に発令を要請する考えはないとした。

一方、岸田首相は31日、「自治体の意見も聞くが、政府としてしっかり判断しなければならないと考えている」と強調。都などへの発令を「現時点で検討していない」と繰り返した。松野博一官房長官は宣言について「一定の客観的指標を満たせば機械的に発出するといった運用にはなじまない」とした。

緊急事態宣言は昨年9月末以来、出ていない。34都道府県に適用されている蔓延(まんえん)防止等重点措置で乗り切りたいところだが、世論に流されやすいのも現政権だ。国内の感染者数が1日10万人を突破するのも遠くなく、高齢者の重症者や死者が急増する事態となれば、宣言発令を求める声に「耳を傾ける」ことも十分考えられる。

第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストの試算では、34都府県に重点措置が適用された時点では、個人消費の押し下げは約3000億円減、GDPは約2600億円減と見込んでいる。

これが宣言発令となった場合、押し下げ額は「2倍に拡大する」と永濱氏。「個人消費は約6000億円減、GDPは5200億円減で、失業者は2万3000人増となる。昨年も人流抑制とは無関係にピークアウトしたとの指摘がある一方、経済への悪影響が確実なのをみると、賢い選択とはいえない」と強調する。

昨秋以降、感染対策と経済を両立する「ウィズコロナ」の議論も盛り上がったが、再度、強い行動制限へ逆戻りすれば、飲食店などの経営にも大打撃だ。

信用調査会社「東京経済」情報部副部長の森田幸典氏は「現段階では倒産や廃業は抑制されているが、飲食店に限らず、一部の金融機関ではコロナ関連融資の70%が返済スケジュールを変更している。宣言を発令すれば、こうした動きに拍車がかかるだろう」とみる。

オミクロン株による「第6波」の特性を踏まえた対策が議論されているが、デルタ株との差をデータが物語っている。東京大の仲田泰祐准教授らが試算した29日時点の最新の重症化率は0・022~0・036%、0・66%だった「第5波」と比べても18分の1から30分の1の低水準だ。

医療ジャーナリストで医師の森田洋之氏は「オミクロン株が重症化しにくいことは明らかである上、従来の宣言の効果を示す科学的なエビデンスも存在せず、発令するにしても『過去に実施した』という一点に正当性を求めるしかないあしき前例主義だ。宣言の発令が議論になるのも、政治の側が支持率を気にしているだけにみえる」と語気を強めた。

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