「老後資金2000万円問題」が、じつは「まったく新たな展開」を迎えていた…! ご存知でしたか?

「老後資金2000万円問題」の今

『老後の資金がありません!』という映画が話題になっています。

それは、老後のお金に不安を持っている人がたくさんいるからでしょう。

老後のお金については3年前、金融庁の審議会が「老後資金が2000万円不足する」という報告書を出し、大騒ぎになりました。

この報告書は、総務省統計局の調査をもとにしたもので、高齢者世帯は収入に比べて支出が月に約5万円多く、これが30年続くと、生活費だけで約2000万円のお金が不足するから、貯蓄を切り崩していかなくてはならないというものでした。

この話を聞いて老後資金を作るために慌てて投資を始めた人も多いのではないでしょうか。中には詐欺まがいの怪しい「儲け話」に騙されてしまった人もいるかもしれません。


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第21回 市場ワーキンググループ 厚生労働省提出資料より

ところが、新型コロナ禍で、状況が一変しました。

「老後2000万円不足問題」で衝撃を受けた高齢者が、新型コロナを期に、お金を使わずに貯め込むようになったのです。

外出が減り、娯楽費や交際費が大幅に減っただけでなく、19万1880円だった社会保障給付費が21万9976円へと約2万円増えています。2020年は、1人10万円の現金給付があったので、この一部が貯蓄に回ったのではないかとも推測されます。

結果、2020年の総務省の調査では、月約5万円だった赤字が消えただけでなく、一転して1111円の黒字となったのです。

つまり、あれだけ大騒ぎした「2000万円問題」というのは、一時的な統計結果を元にした計算上の「問題」だったというわけなのです。

では、これからは同じようなことにはならないのでしょうか。

2020年は色々な点で特別な要因があったのは事実ですが、この状況は今後も続く可能性が高いと私は考えています。つまり「2000万円問題」が再び騒がれることはないのではないか、ということです。

新型コロナが終息し、リベンジ消費が始まるなどと言われていますが、それは極めて限定的でしょう。なぜなら、コロナ禍で多くの人が「自分の身は自分で守らなくては、政府もあてにならない」と感じたからです。

菅義偉前首相が所信表明演説で強調した「自助」の精神は、皮肉なことに、コロナになった人を入院させることすらできなかった政府の無策を目の当たりにして、多くの人の心に刻み込まれたような気がします。つまり、今後も支出が増える可能性は低いのです。


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65歳を過ぎても働く!

一方、収入の方はどうでしょう。

あまり知られていないかも知れませんが、新型コロナ禍の中で、老後の働き方に関わる大きな制度の変化がありました。

高齢者を働かせるための法律改正が行われたことです。

これまで高齢者は65歳までは、本人が望めば会社に勤められることになっていました。この高齢者雇用安定法がバージョンアップし、2021年4月からは、企業への努力義務ではありますが、本人が望めば70歳まで働けるようになりました。

2022年4月からは、60歳から65歳までの年金カットも緩和されるので、稼げるだけ稼ぐという人も増えるでしょう。

さらに、年金を遅らせてもらう繰り下げ支給の年齢も、70歳から75歳になりました(対象は、2022年4月1日以降に70歳に到達する人)。

加えて、65歳以降に働くと、今までよりも年金が有利にもらえる改正も行われました。

つまり、国を挙げて高齢者に「働け!」という環境を整えたということです。

これについて「死ぬまで働けと言うことか」と文句をいう人もいますが、働くことを義務づけているわけではありません。むしろ働いて収入をアップさせたい高齢者にとっては、悪い話ばかりではないでしょう。高齢者でも働いて稼ぐ人が増えることが予想され、いっぽうで自分の身を自分で守るために消費をセーブすれば、高齢者家庭の5万円の生活費不足は解消され続けるでしょう。

「介護費用」は、ひとり500万円を確保

新型コロナを期に、幸いなことに(?)、家計の「老後2000万円不足問題」は解消したかに見えますが、すべてが解決したわけではありません。

忘れてはいけないのは、老後には、生活費だけでなく老後に特有のお金がかかるということです。

それは、「介護費用」と「医療費」です。

先程の「老後2000万円不足問題」というのは、生活費に限った話です。それが解消したとしても、それで「生きていくことはできる」としても、それ以外に老後には「介護費用」や「医療費」の準備が必要ということです。

では、実際に、どれくらい準備しておけばいいのでしょうか。

「介護費用」については、生命保険文化センターが「生命保険に関する全国実態調査」というアンケートを実施しています。これによると、一時的にかかったお金が平均69万円、月々かかったお金が平均7・8万円。介護期間は平均54・5ヶ月でした。
これから計算すると、平均的な介護状況なら、ひとりあたり約500万円、夫婦で1000万円ということなります。

老後の「医療費」は200万円を確保

一方の「医療費」については、高齢者の方はそれほど心配する必要はないと思います。

日本では、医療費は基本的には本人が3割負担で、70歳になると2割負担という人が多く、75歳以上だと1割負担という人が多いからです。

しかも、「高額療養費制度」で、さらに負担額が減ります。

表は、70歳以上の負担額です。


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年収が約370万円までなら、100万円の入院費がかかろうが200万円の入院費がかかろうが、健康保険の対象内なら月5万7600円。夫婦で同じ保険なら、家族合算できるので2人で最大5万7600円。しかも入院が長引くと、4ヶ月目からは4万4400円になります。

今は病院も、そんなに長く入院させてくれないし、長引いたら介護に回されますから、老後の医療費は200万円を目処に準備すればいいと考えておけばいいでしょう。
ここに葬式その他もろもろのことを考えると、「介護費用」と「医療費」と「その他」で、1500万円くらいはイザという時のために準備しておきたいということです。

30代、40代は、まずローンを返す

総務省統計局の調査では、家族が2人以上で、世帯主が65歳以上で無職の世帯の貯蓄額は、平均で2292万円です。今のご老人は、退職金もソコソコもらっていますから貯金を持っています。介護やその他に費用がかかっても、ある程度は対応できると言っていいかもしれません。

問題は、退職金が心もとない、30代、40代の方たちでしょう。読者にもこの世代の人は多いと思いますが、「そんなに貯金できない」という声が聞こえてきそうです。

では、30代、40代が、安心な老後を迎えるためにはどうすればいいのでしょうか。
貯金ができないなら、リスクをとって運用で増やすしかない。そんな風に考える人もいるかもしれません。でも、ちょっと待ってください。

老後のための資金を確保するためには、貯金や投資で試算を増やすことよりも、まず先にやって欲しいことがあります。それは住宅ローンなどの負債を返すことに専念しましょう。

今は、35年ローンというのは珍しくなくなっていますが、35歳で35年ローンを組んだら、完済するのは70歳。住宅ローンを抱えながら年金暮らしに突入するのはとても危険です。まずは住宅ローンなど借金を減らすことに専念しましょう。

その上で、借金がなくなったら、今までローンで払っていたぶんを貯金しましょう。

仮に、50歳で住宅ローンを完済できたら、そこからローンで払っていたお金を貯金に回せます。さらに、その時点で子供が社会人になっていれば、今まで子供にかかっていた教育費も貯金に回せるかもしれません。子供の手が離れた妻が働いてくれれば、貯金額はグンと増えます。

仮に、こうして月に10万円ずつ貯金できれば、1年で120万円、65歳までの15年で1800万円の貯金ができることになります。

いかがでしょう。これなら決して無謀な計画ではないはず。それでも、老後に自分で用意しなければいけないお金を充分に確保できるのです。

もちろん、リスクをとって危険な投資などする必要もありません。

しかも、現役時代を通じて無駄な出費をしない生活を続けていれば、老後に年金の範囲で暮らすようになっても、老後破綻するリスクもぐんと下げることができます。

2000万円問題などいうショッキングに言葉に踊らされず、まずは冷静になり、その上でコツコツとやるべきことを続ける。それが老後を安心して暮らすためになにより必要なことなのです。

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