プロ野球東北楽天が26日、球団創設9年目で悲願のリーグ制覇を果たした。東日本大震災から2年半余り。この日まで、被災地の希望の象徴になろうとチームは思いを一つにしてきた。圧倒的な強さで決めた優勝は、復興道半ばの東北を照らす一筋の光となる。
星野監督の忘れられない言葉がある。
2011年4月7日。震災後初めて仙台に戻り、避難所となっていた仙台市若林区の六郷小を見舞った時のことだ。体育館に身を寄せていた子どもたちにこう呼び掛けた。
「頑張れ、とは言いたくない。この時をしっかりと我慢して、耐えてください。苦しい時を耐えれば必ず強い人になれる。負けるな」
なぜ「頑張れ」ではなく「耐えろ」だったのか。後日、真意を聞いた。
「家を失い、家族や友達を失ったかもしれない子たち。正直どう言ったらいいか分からなかった。だけど耐えたら強くなれるというのは俺が人生で学んできたこと。それだけを伝えたかった」
言葉はこの3年間のチームの歩みにも重なる。
11年は嶋基宏選手の勝ち越し3ランで開幕戦を白星で飾ったが、夏場に失速して5位に沈む。翌年は4位。小差でクライマックスシリーズ進出を逃した。
この2年間を耐えたイヌワシたちはことし、雄々しい翼を広げてみせた。田中将大投手は球史に残る右腕に成長し、銀次、枡田慎太郎両選手ら生え抜きの若手が躍動した。逆転に次ぐ逆転による勝利。勝負どころはからっきし弱かったかつての姿は、もうない。
誰もが強いイーグルスを待ち望んでいた。58試合目で観客動員が100万人を突破したのは球団史上最速。チームの勢いに呼応するように観客数が伸びていった。
夏の緑のユニホーム。大きな「TOHOKU」の文字には、被災地を元気にしたいという思いが込められている。東北の誇りを胸に戦ったナインが独走で頂点をつかんだ。
嶋選手は言う。「優勝して、東北の皆さんに喜んでもらいたかった」。この歓喜は被災地にもあまねく届く。
◎鮮烈、歴史的瞬間この目で西武ドーム
西武ドーム(埼玉県所沢市)で行われた26日の西武-東北楽天戦には、イヌワシ軍団のリーグ初制覇という歴史的な瞬間を目撃しようと、大勢のファンが駆け付けた。2位ロッテが日本ハムに敗れる中、4-3の鮮やかな逆転勝利を飾って優勝が決まり、歓喜に酔いしれた。
1-3の七回2死満塁から、ジョーンズ外野手が右中間を破る3点適時二塁打を放って一気に逆転。ライトスタンドを埋め尽くした東北楽天ファンの歓声は最高潮に達した。九回からエース田中将大投手が登板、自ら招いた1死二、三塁のピンチをしのいだ。
これまでAクラスが1度しかなかった東北楽天。創設9年目での頂点にファンの喜びもひとしお。登米市から応援に駆けつけた会社員瀬川昌朗さん(43)は「こんな日が来るとは昨年まで想像できなかった。弱かった時もあったが、今まで応援してきて良かった」と星野仙一監督の胴上げを感慨深げに見つめた。
友人らと観戦に訪れた東京都江東区の大学生五十嵐千聡さん(23)=福島市出身=は「何もないところから歴史を積み重ねてきたチームの優勝に立ち会えたのは格別」と満面の笑みを見せた。