「職場の飲み会は残業なのか」問題 人事専門家の見解は

今年4月から順次施行が始まった働き方改革関連法。この法律を想起させる今クールの連続ドラマ『わたし、定時で帰ります。』(TBS系列、火曜10時~)は第8話まで終了し、クライマックスに差し掛かっている。

【写真】ヒロイン・吉高由里子の飲み会は「残業」だった

 このドラマでは、働き方に対する個々の認識の違いをところどころで取り上げることで、うまくスパイスを利かせている。たとえば、残業について。「仕事は一日のやるべきことが終わるまで残業してでも続けるべきだ」と言う人もいれば、「決められた時間内に仕事を終えられるように頑張り、それでも終わらなかったら残業せずに明日に持ち越してよい」と考えている人もいる。

 ドラマの第2話では、ヒロインの東山結衣(吉高由里子)が社内の同僚との飲み会で店を出たあと、スマホのアプリで「退勤」ボタンを押す場面がある。東山の部下で新人の来栖泰斗(泉澤祐希)は、「え? 飲み会も勤務時間にカウントしていいんですか?」と驚く。

 仕事で関わりのある人との酒席の時間を残業代に含めてもいいものかどうか、悩む人は結構、多いようだ。ある40代の編集者は、「1次会は残業代に含めるが、2次会はカウントしない」と言う。「2次会はどうしても参加しなければいけないものではないから」というのが、その理由だ。

 どこからどこまでを労働時間に含めるのか、酒席だけでなく、たとえば研修や語学習得のための受講ならどうなのか。会社に行くように指示された場合は労働時間に含めるが、自発的に通う場合はどうか。独学での資格取得を会社に指示され、講座や教室に通いたい場合もあるに違いない。

「その判断は確かに難しい面はある」というのは、賃金・人事について企業にコンサルティングを行っている大槻幸雄・賃金管理研究所副所長だ。

「『労働時間』とは、労働者が使用者の指揮命令下にある時間のこと。そのため、その酒席が出席せざるを得ないものなのか、退席・欠席する裁量が与えられているかどうかが判断基準です。たとえば、社内の結束を深めるための同僚との懇親会であっても『全員参加』が条件であれば、労働時間に含めることになるし、社外の人であっても『たまには担当者同士で飲みに行きましょうか』という場合には、労働時間ではないという考え方です」

 ドラマ内での東山の場合は、上司の福永清次(ユースケ・サンタマリア)や種田晃太郎(向井理)の歓迎会という名目で事実上参加が義務づけられており、勤務時間に含めていいわけだ。40代編集者の「2次会からはノーカウント」も概ねこの定義に合致する。大槻氏が続ける。

「酒席や研修など、どこまでを勤務時間に含めるかは、法令解釈に沿って会社としての基準を決めておくべきもの。判断が難しい場合は、事前に上司の決裁を仰ぐことです。会社のルールを前提に個々のケースを判断すべきで、ルールがなく事後でその都度、判断するようでは職場に規律がないということ。労働時間云々よりそのほうが問題です」

 現場の社員が不公平感を抱かないように経営陣がそうしたルール作りをしっかり行い、社内に共有、浸透させていくことが必要だ。規律なく、なあなあで動いていると、誰かが不公平感を持ち、不平不満が社内に広がって仕事への意欲も減退していく。

「飲み会で『参加は自由』と言われても断われない空気があるんだよ」という人もいるだろう。酒が飲めない体質で、酒席自体がしんどいと感じているのに「自分がいないところで仕事の話が進むのでは?」「断わってばかりだと昇進に影響するかも……」と思ってしまったりするものだ。

 しかし、職務性のない、強制力のないイベントを断ってみたところでさしたる影響がないことは、多くの先輩たちが経験している。実際、筆者もサラリーマン生活を16年経験するなかで酒席や各種イベントに誘われたが、それを断わった結果、仕事がなくなるような経験をしたことは一度もない。誘う方もそれほど重大に考えてはいないものなのだ。

「断われない空気」は、自分で自分の中につくりだしたものかもしれない。

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