「脳疲労」の兆候はこれだ! “1億総ストレス社会“を生き抜く術は「会社7割、家庭3割」

WHO(世界保健機関)の調査によると、全世界人口の約5%、約3億5000万人以上が「うつ病」に罹患しており、先進国を対象に「健康に害を及ぼす病気」について調査した結果では、うつ病が第1位となっている──。

最近刊行された『「脳疲労」社会 ストレスケア病棟からみえる現代日本』(講談社現代新書)では、このような事実に触れている。現代において、うつ病がいかに深い広がりを見せている深刻な病であるかが、この数字に表れているのだ。

本書の著者・徳永雄一郎氏は、不知火病院の院長や日本ストレスケア病棟研究会の会長を務め、1989年には日本で初の「うつ病専門病棟」を開設した、うつ病治療の先駆者でもある。

その徳永氏による本書には、うつ病に関する最新の知見と、私たち現代人がどのようにうつ病に対処すればいいのか、有用なアドバイスが紹介されている。

徳永氏によると、現在のうつ病を説明するキーワードは「脳疲労」だ。これまで「疲労」といえば肉体のそれを指していたが、近年の急速なIT化は、疲労の質を根本的に変化させた。

長時間パソコンの前に張り付くオフィスでの勤務は、目と脳のみを酷使するがために、人類がこれまでに経験したことがないほど脳に疲労をもたらすことになったのだ。

風邪をひかなくなるのは〝疲労の種”の蓄積か?

脳の疲労は肉体の疲労と比べて気づきにくい。その兆候はまず、集中力や判断力の低下として表れる。具体的には、これまで短時間でできていたパソコン作業や書類作成作業に時間がかかるようになる。

これは、強いストレス状態の持続によって脳が過活動状態となり、その結果として「脳疲労」が起こっているためだ。

「脳疲労」がやっかいなのは、肉体の疲れではぐっすり眠りやすくなるのと反対に、脳の過活動が続いて睡眠が取りにくくなること。寝不足でだるい状態のまま翌日も仕事に行くことで、疲労はますます蓄積されていく。

脳疲労の蓄積はさまざまな形で体に表れるが、徳永氏は特に「風邪をひきやすくなったら注意してほしい」と説く。うつ病患者によくあるケースとして、まず風邪をひきやすく、そして一度ひいたら直りにくくなり、そこからうつ病が本格化していくことが多いという。

ところが意外なことに、うつ病患者に風邪の発症経歴を尋ねると、社会人になってから「風邪に罹らなくなった」人が多い。風邪をひかなくなったのは、社会人としての責任感が培われたためか?

いや、ここで注視すべきは、風邪を引かなくなるほど、入社してから高い緊張状態が維持されていた点だ。そして一転して、風邪をひきやすく、治りにくくなるのだ。〝疲労の種”が長年蓄積していた、というのが徳永氏の考えだ。
脳疲労を蓄積させる過度の長時間労働

折しも2015年12月から、労働安全衛生法が改正され、従業員が50人以上の事業所では、自分のストレスの程度や傾向をチェックする「ストレスチェック」が義務づけられるようになった。

事業所によっては実際に実施したところもそろそろ出始めているだろう。もし、ストレスが高めの数値で推移していることがわかった場合は、自分では自覚していなくても、長年の「脳疲労」がたまっているケースが多いと思われる。ぜひ注意したい。

『「脳疲労」社会』の記述によれば、慢性的な脳疲労の原因は長時間労働にあり、日本の労働生産性は、OECD加盟国34カ国中22番目に留まるという。

徳永氏は、脳疲労を防止し、家庭を望ましい状態に維持するためにも、「会社で使うエネルギーは70%にとどめ、家庭のために30%のエネルギーを残しておく」ことを提案する。

これも本書によれば、労働政策研究・研修機構が約2400の起業と約8900人の労働者の残業時間の効果について2015年に調査したところ、「残業時間の長い社員が早く昇進している」と回答した企業は4.8%に留まったそうだ。

長く働き続けるためにも、脳疲労を蓄積させる過度の長時間労働は禁物だ。会社全体で、不毛な残業を避けるムードを作っていくことが、社員の健康にもつながることを心得ておきたい。
(文=編集部)

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