中国人観光客らの「爆買い」の中心地、大阪・ミナミの商店街で「異変」が起きている。訪問客は増えているのに、家電・ブランド品の販売店や百貨店の 高額品売り場で客足が途絶えているのだ。所得の低い中間層の訪日が増えたほか、海外の買い物にかける関税引き上げなど中国の爆買い〝阻止策〟や円高で財布 のひもが固くなったことも背景にあるとみられる。化粧品や日用品を扱うドラッグストアは好調で、勝ち組と負け組に分かれつつある。(井上浩平)
大型バスが激減
「爆買いの中国人客は年明けから来なくなった。バブルは終わったのかも」
ミナミで最もにぎわう商店街の一つ、戎橋筋商店街(大阪市中央区)にある高級ブランド品と宝飾品の販売店で、50代の女性店員はため息をついた。
昨年末まで中国人客らであふれ、一度に100万円分購入するケースも珍しくなかった。しかし年が明けると客足が急激に鈍り、中国の旧正月にあたる春節前後の休暇も期待したほどの売り上げはなかった。
歯止めをかけようと、外国人向けの旅行パンフレットに割引券を付けたが、使用する客はほぼいない。1時間に数組が来店するものの、店内を眺めて立ち去るケースが大半だという。
中国人客らの大型バスが到着する道頓堀川の橋上でも変化の兆しがある。誘導員の男性(53)は「バスの台数が減った気がする。4月までは1時間に40〜50台到着することもあったが、最近は十数台くらい。街は中国人だらけなのに…」と首をかしげた。
団体から個人旅行へ
大阪観光局の担当者は「中国人客は減っていない。依然として好調だ」と語る。
観光局によると、1〜3月に大阪を訪れた中国人客は約81万人で、昨年同期の約43万人からほぼ倍増した。中国の地方都市と関西国際空港を結ぶ格安航空会社(LCC)の増便などを背景に、春節や花見の時期に重なったことも好調の理由とみられる。
担当者は「リピーターが増えて個人旅行が中心になりつつあり、大型バスの団体旅行が減っている」と指摘する。
多くの中国人客が訪れているのに、一部店舗で客が減ったのにはこんな事情がある。買い物の中心が家電や宝飾品などの高額商品から、単価の低い化粧品や日用品に移ったのだ。
日銀大阪支店によると、1〜3月の関西国際空港経由の中国人客が買い物に使った平均は約14万円で、前年同期の約17万円を下回った。京阪神の主要百貨店 の免税売上高は、3月まで前年同月比プラスを続けていたが、4月にマイナス9・0%、5月に同15・9%と2カ月連続で減少した。
消費の落ち込みに影響したとみられるのが中国の爆買い〝阻止策〟だ。4月から海外で購入した商品に課す関税の税率を変更。高級腕時計の関税率を30%から60%に引き上げるなどした。外国為替市場での円高も消費低迷の一因となった。
LCCの増便も無関係ではない。以前は北京など大都市の富裕層が旅行客の中心だったが、平均所得の低い地方都市の中間層が多く訪れるようになった。
独り勝ち状態
閑古鳥が鳴いている家電・ブランド品の販売店を尻目に、「独り勝ち状態」となっているのがドラッグストアだ。
ミナミ一帯では中国人客を狙って昨年から出店が相次ぎ、店員の大半が中華圏出身という「爆買いシフト」を敷く店もある。
心斎橋筋商店街(中央区)の各店舗では、目薬やダイエット用のサプリメントを大量に買い込み、数万円の支払いをする中国人客らの姿が目立つ。ある男性店員(26)は「客の数に変化はない。同じ日焼け止めクリームを数十個単位で購入する中国人をよく見かける」と語る。
中国人客を案内するアジア系の女性(48)はこう分析した。
「高級家電は何年も使えるから、一度手に入れた富裕層が個人旅行で再来日しても買わないが、安全・安心で知られる日本の薬や化粧品などの注目度は高い。健康への関心の高まりもあり、富裕層や中間層がこぞってドラッグストアに流れているのではないか」