「裏コリアタウン」に変化 3人殺傷事件の今里新地…急増するベトナム人に治安悪化懸念

旧遊郭の面影を残す大阪市生野区の今里新地。9月、ベトナム人同士らによるトラブルから同国籍の男性3人が殺傷される事件が起きた。一帯は在日コリ アンが多く住むコリアタウンだが、アパート家賃の安さや利便性の良さを理由に、語学留学生を中心にベトナム人のコミュニティーが急速に発展、トラブルも目 立ち始めていた。「皆、悪い人とは思わないが…」。周辺住民に不安が漂う中、ベトナム人と在日コリアンとの間に“軋轢(あつれき)”も生じつつある。(矢 田幸己)

◆昭和の歓楽街

近鉄大阪線今里駅から南西約800メートルの今里新地。旧遊郭街のメーン通りには「料亭」が軒を連ねる。別の通りへ一歩足を踏み入れると、ハングルで書かれたスナックや居酒屋などの看板が目に飛び込み、昭和の歓楽街といった趣が漂う。

同線やJR大阪環状線、市営地下鉄千日前線の鶴橋駅近くの御幸通商店街などを観光客も行き交う“表”のコリアタウンとすれば、今里新地はやや雰囲気が異なるディープな「裏コリアタウン」だ。

事件は9月6日深夜、今里新地の一角で起きた。

ベトナム国籍の男性(25)が路上で集団に刃物で切り付けられるなどして死亡。近くのマンションでは、ともに同国籍の20歳と25歳の男性2人が切られるなどし、重傷を負った。

周辺の防犯カメラには、バットのような棒を持った男らが暴行したりする様子や、6人組が男性の死亡した現場へ歩いて向かう様子がとらえられていた。

発生3日後の夜、主犯格の男(30)が大阪府警生野署へ出頭。今月14日までに男を含むベトナム国籍の男女3人が殺人、同未遂の容疑で逮捕(殺人容疑は処 分保留)され、殺人容疑で同国籍の男(22)と日本人の男(66)が逮捕された。府警は防犯カメラ映像に写っていたもう1人が関与したとみている。

◆騒音トラブル

今里新地では近年、ベトナム人が急増している。夜間に路上でけんかしたり、大音量で音楽を流したりするなどし、近隣の在日コリアンとのトラブルも目立っていた。

「マナーが悪いベトナム人が多い。夜遅く外でわめくし、いつか事件が起きると思っていた」

付近でスナックを営む在日韓国人の女性(48)は以前、深夜に路上で酒をあおり、騒いでいたベトナム人グループに注意したところ、近づきながら大声でまくし立てられたという。

地区内で暮らす韓国籍の女性(54)も「ベトナム人は後から(地区に)入ってきたのに、大きな顔をするから不愉快」と顔をしかめる。

生野区内でのベトナム人の急増は、統計からも明らかだ。

同区によると、区内の外国人登録者数は8月末現在で約2万7500人。歴史的背景などもあり、うち9割近くを韓国・朝鮮籍が占めるが、ベトナム人は中国人(約1700人)に次ぐ約900人。平成24年4月時点の約150人に比べると、3年余りで約6倍になった。

◆安い家賃背景

なぜ、コリアタウンにベトナム人が住むようになったのか。

最大の理由は、アパートやマンションの家賃の安さとみられる。大阪・キタやミナミの相場と比べれば、賃料は格段に安い。

今里新地でアパートを管理する女性は「数年前から『外国人入居可』にした途端、満室になった。家賃の安さが口コミで広まったのでは」と言う。

日本の語学学校で学ぶ留学生のために、学校側がアパートを借り上げ、ベトナム人やアジア系の生徒らを住まわせるケースもあるという。

ただ、周辺住民は治安の悪化を懸念している。地区内で長年暮らす日本人の自営業の男性(71)は「これまで日本人は日本人、韓国人は韓国人と住み分けができていた。今回のような事件が起こると、イメージダウンに拍車が掛かってしまう」とこぼす。

ネット上では今回の事件を機に、「移民政策が始まったら、こんな事件は毎日だ」「ベトナム人に偏見はないが、犯罪が増えるとなるとちょっと…」などと移民受け入れ反対を主張する書き込みも確認できた。

捜査関係者は「生野区にベトナム人が増えているという印象は持っている。生活環境や文化の違いによるささいなトラブルが事件に発展する可能性もある」として警戒を強めている。

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