「赤字151億円」JTBのかなり深刻な内情…旅行代理店、もはや“売るものがない”状態か

2019年4月より、大手旅行代理店・JTBの一部店舗で「旅行相談料」が試験的に導入された。国内旅行の相談は30分2160円(以降30分ごとに同額)、海外旅行の相談は30分5400円(同3240円)の料金を請求するという。

 実は、こうした相談料は以前から規定されていたものだというが、なぜこのタイミングで厳密な運用に踏み切ったのか。大手旅行代理店で長年の勤務経験があるA氏に、旅行業界で何が起きているのかを聞いた。 相談料徴収は“冷やかし客対策”?

 5月25日に発表されたJTBの19年3月期連結決算では、純損益が過去最大の151億円の赤字となったことが明らかになった。ウェブチケッティングの普及で旅行代理店の存在意義さえ問われ始めているなか、旅行相談料の徴収は業界の断末魔なのだろうか。

「旅行代理店の店舗って、誰でも入れるんですよね。明らかにお金を持っていなさそうな身なりの方が『世界一周ツアーに行きたいんだけど』とカウンターにやって来て、いろいろ話し込むんですよ。しかし、『やっぱり払えません』と帰ってしまい、『この時間っていったいなんだったんだろう?』みたいなケースが多いんです。今回の相談料の請求はサービスの対価をいただくということですが、冷やかし対策の側面もあるでしょうね」(A氏)

 もはや、旅行代理店にはそんな“見込み客”に時間を取られている余裕はないようだ。その背景には、競合のウェブ上の代理店の台頭だけでなく、各社からの「マージン(手数料)の圧縮」に苦しめられている事情があるという。

「バス会社、鉄道会社、航空会社などからもらうマージンは年々、縮小傾向にあります。特に、ツアーではなく交通チケット単品で売った場合、交通会社からのマージンを除いた利益は数百円という世界です。そんな微々たる利益のために数十分でもリソースを割かねばならないというのは、効率を考えると非常に厳しいですね」(同) 旅行代理店は「売るものがない」事態に

 ネットで簡単に旅行情報を得られ、個人予約が当たり前になった昨今、旅行代理店ならではの「情報のアドバンテージ」も薄れているという。

「昔は、旅行会社だけが握っていた情報がたくさんありました。たとえば、航空券は業界関係者だけが相場価格を知ることができたため、そこに好きなように利益を上乗せして売ることができた。今は誰もが情報に簡単にアクセスできるため、ちょっと上乗せするだけで『高い』とバレてしまうので、平均約10%という低い利益率で耐えている状況ですね。そんななか、情報は店舗で仕入れ予約はネットで……という合わせ技を使うお客さんもいらっしゃいます。接客している側にとっては、一番むなしい瞬間だと思いますよ」(同)

「ネット予約なら大手だってやってるじゃないか」。そんな声が聞こえてきそうだが、厳しい状況は店舗もネットも変わらないそうだ。交通機関も各宿泊施設も自社ホームページでの予約比率が高くなってきており、代理店は「売るものがない」という事態になってきている。

「グーグルでも『地域名+ホテル』で簡単に各予約サイトの宿泊料金が比較できてしまうので、だんだん競合のような立ち位置になりつつあります。グーグルに本気を出されたら、多くの旅行予約サイトが潰れるかもしれません」(同)

 さらに、旅行業界は異業種からの参入も激しいという。「旅行業免許と通信手段さえあれば誰でもできますよ」とA氏は自嘲気味に言うが、競合が多いからこそ、成功するにはそれなりの商品力が必要になる。

「旅行業界は中小企業のほうが業績が伸びている印象はありますね。たとえば、『韓国で整形ツアー』『タイで性転換ツアー』など現地に人脈がないとつくれないような旅行商品は、一般の方やほかの旅行会社では相場や値頃感がわかりません。商品自体に価値があり、情報を占有できているからこそ、利益も取れる。ただ、大手だと、ここまで特化して攻めた企画は難しいでしょうね」(同) それでも大手旅行代理店が強い分野とは

 店舗もネットもジリ貧状態だが、依然として大手旅行代理店が優位な分野は存在する。クルージングツアーなどの内訳がわかりにくいプランや南米などのアクセスしづらい土地については、ノウハウがあるので利益率の高い商品を企画することができるという。

「社員旅行や修学旅行などの“団体旅行”も依然として強いです。多くの宿泊予約サイトは数十名単位の検索に対応しておらず、対応していたとしても個人価格×人数になってしまう。その点、大手代理店は大量仕入れができるので、個人で予約するよりも安価に提供できます。また、G20大阪サミットや東京五輪などの大きなイベントにおいては、警備員やメディア関連などの宿泊を取りまとめる役割も担っています」(同)

 17年に倒産した、てるみくらぶ(ネット専門の旅行代理店)の不祥事によって、信頼感を求めて大手に来店する人もいるという。また、対面で顧客ごとにカスタマイズしたプランを提供するという意味では、ハネムーンなど特別な意味を持つ旅行においては「引き続き需要が見込めそう」とのことだ。

「店舗数が減少に向かっているなかで、ただ相談料を取って人員コストを削減するというだけではあまりに消極的。まず接客の質を上げ、旅行だけでなく生活に付随するサービスの展開も重要になるでしょう。たとえば、海外旅行用携帯のみならず国内用SIMフリー携帯も販売するなど、店舗の有効活用を考えていかないと生き残りは厳しいでしょうね」(同)

 5月の記者会見で、田端浩観光庁長官は旅行相談料の試験導入について「(ほかの)大手も続けば良い」と期待を示したが、追随する会社は出てくるのだろうか。この試みによって「客離れを招いただけ」という事態にならないといいが……。

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