エコカー補助金の終了に伴う反動減で自動車の国内販売が低迷する中、低価格で燃費に優れた軽自動車は絶好調だ。平成25年の年間販売台数は、これまで過去最高だった18年の約202万台を7年ぶりに更新する可能性がある。来年4月の消費税率3%引き上げを前に、駆け込み需要も始まっている。さぞかし業界全体が潤っているかと思いきや、下請けの部品メーカーの収益は逆に悪化しているとか。果たしてその理由は…。
「まるで打ち上げ花火のような飛躍的な伸び。稼ぐのは今でしょ」。大手自動車メーカーの幹部は、軽自動車市場に期待をかける。ガソリン価格が高騰する中、普通乗用車より燃費性能に優れ、税金など維持費が安い軽自動車の伸びは目覚ましい。事実、新車販売全体に占める軽自動車の割合は10年前の約35%から、今では40%を上回るほどだ。24年の軽の販売台数は前年比30.1%増の198万台、25年は200万台を大きく上回るとみられる。
メーカー各社は、エコカー補助金の恩恵が切れた今、普通乗用車の失速を軽自動車でカバーしようと躍起だ。このため、先を争うように「低価格・低燃費」をうたう新車を次々と投入している。19日発売されたダイハツ工業の軽自動車「ミラ イース」新モデルは、燃費がガソリン1リットル当たり33・4キロとガソリン車では最高を達成しただけでなく、希望小売価格も74万5000円からと従来モデルより5万円安い。11月に軽自動車の新製品を発売するホンダも、従来120万~150万円だった中心価格帯を引き下げる。
過熱する軽乗用車市場。各社には、消費税引き上げ前の駆け込み需要を最大限取り入れたいとの思惑がある。また、27年に廃止される自動車取得税の代替財源として、将来的に軽自動車税が増税される懸念もあるようだ。この結果、「各社は焦燥感に包まれ、低価格競争が激しさを増している」(証券アナリスト)との指摘も多い。
ところが、低価格競争のあおりは、国内に100社以上ある下請けの部品メーカーに出始めた。納入部品の価格をできる限り抑えるよう、自動車メーカーから迫られているからだ。都内の部品メーカー担当者は「市場は盛り上がっているにもかかわらず、収益性の低い商売で、割に合わない」とぼやく。
原材料コストを抑えて低価格部品でも何とか利益を出せるよう踏ん張っているが、納入先の自動車メーカーからはさらなる低価格化を求められている。この担当者は「今が“旬”の市場。うちが軽自動車部品を辞めても他社に取って代わられる。撤退するわけにもいかない」と悲壮感をあらわにする。納入部品の品種を増やして、収益性を確保しようとする企業も少なくない。別の部品メーカーは、連日社内会議を開き、軽自動車用部品の品種を増やすアイデアを出し合っているという。
部品メーカーにとってはさらに厳しい状況もある。大手自動車メーカーが「高品質・低価格」部品を求めて、海外にも目を向け始めたからだ。ダイハツは平成21年、部品調達コストを大幅に削減する方針を発表。軽自動車の部品について、既存の取引先にこだわらず、海外メーカーを含め調達先を広げる方針を明らかにした。
実際、「ミラ イース」の改良版でも、販売価格を抑えるため、海外製の部品を一部使っている。同社担当者は「部品メーカーもグローバル競争が激化している」と指摘する。かつて、国内の自動車メーカーと系列部品メーカーは“鉄の結束”と呼ばれたが、その「古き良き伝統」は失われつつある。軽自動車市場はかつてない盛り上がりを見せているが、関連産業が全て“追い風”というわけではなさそうだ。(板東和正)