「近大マグロ」なら銀座でも戦える 飛ぶように売れる1万円の刺し身

 希少価値で「海のダイヤ」とも呼ばれる高級魚クロマグロ。乱獲による資源減少で世界的に漁獲規制が厳しくなる中、近畿大学水産研究所(和歌山県)が世界初の完全養殖に成功した「近大マグロ」のブランドが浸透しつつある。百貨店がお歳暮商戦の目玉商品に取り上げ、JR大阪駅北側の複合ビル群「グランフロント大阪」(大阪市北区)では養殖魚専門店が大人気。着々と消費者との接点を拡大する近大マグロは、日本の食卓を席巻するかもしれない。
 関西でお歳暮商戦が始まった16日午前、高島屋大阪店(大阪市中央区)の特設コーナーに人だかりができていた。買い物客の目当ては「媛(ひめ)マグロ」。試食の刺し身は飛ぶようになくなっていった。媛マグロは大阪の鮮魚店、新魚栄の商品。近大マグロの稚魚を愛媛・宇和島に運んで成魚に育てたもので、「身が締まって赤身がおいしい」(同社)という。
 商品は100グラムずつ切り身を真空パックで小分けしたもので、価格は1万500円。高島屋は「お歳暮のついでに、自宅用として買う人も増えそうだ」と期待を寄せる。近大マグロ人気の火付け役は、4月26日にオープンしたグランフロント大阪だ。飲食店でトップクラスの集客を誇るのが、近大の養殖魚が味わえる専門店「近畿大学水産研究所」。開業から行列が絶えない盛況ぶりだ。
 人気は、近大マグロを中心にさまざまな養殖魚の刺し身が楽しめる2800円の盛り合わせ。「近大マグロは知っていたが、どこで食べられるのか知らなかった」という客がほとんどで、同店が“発信基地”になった格好だ。盛況を受け、近大などは年内にも東京・銀座に2号店を出店する計画。関西での知名度アップを追い風に、近大は「銀座でも戦える」と強気だ。
 一般的な養殖マグロは、天然の幼魚を捕獲して育てる「蓄養」タイプだが、近大マグロは卵を孵化(ふか)して育てる完全養殖だ。研究に着手したのは昭和45年。クロマグロは皮膚が弱く、うかつに触れないなどデリケートで、生態もよく知られていなかったため研究が難航したが、試行錯誤を繰り返し、平成14年に完全養殖を成し遂げた。
 蓄養の養殖マグロより2~3割高いが、近大は天然物と遜色のない味だと自信をみせている。さらに近大はマグロのDNA解析を進め、生存力の強い個体を選んで育てる「選抜育種」に力を入れている。「将来的には消費者の要望に応じて赤身が多いものやトロが多いものなど、作り分けができるようにしたい」という。
 日本は世界のマグロ類の約3割、クロマグロでは約8割を消費するマグロの消費大国だ。しかしクロマグロは日本食ブームや新興国などでの消費拡大で、乱獲により個体数が減少し、世界的な漁獲量の削減措置が議論されている。一方で販売ルートを広げ、お目にかかることが増えてきた近大マグロ。生産拡大が順調に進み、日本の食卓を彩る日が近いのかもしれない。(中村智隆)

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