「PTAに入らない」「退会する」という選択をする人が、今だんだんと増えています。保護者や教職員を本人の意思と関係なく会員にするPTAが多かったなか、「実はPTAは義務でなく、入りたい人が入るもの」ということが、だいぶ知られてきたのでしょう。
「全員入るべき」と言う人もまだいますが、これまでの強制ベースの運営に疑問を感じて、状況改善や適正化をはかる会長や役員さんたちも増えてきました。
PTAの退会届をもらいにいったら…
ただ、いかんせん過渡期です。「退会を伝えたら、思わぬ対応を受けた」という話も、ぽつぽつ聞こえてきます。よくあるのは「非会員家庭の子どもには記念品をあげない」などの間違った対応で、これについては前回の記事で詳細な事例を紹介しました。
そうしたよくある事例以外に、最近聞いて驚いたのが、こんな話です。PTAの退会届をもらいにいったら、「退会は毎年手続きが必要です」と注意書きがあった、というのです。
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なんと斬新な……。一度退会しても、翌年度は自動的に加入になるので、その都度退会手続きが必要になる、ということでしょうか。いまだに退会届がないPTAも多いなか、書式を用意しているだけ良心的だとは思うのですが、任意加入の意味をわかっているのか?
書面をつくった役員さんも、おそらく悪気はないのです。PTAはこれまで何十年も自動強制加入を続けてきたので、頭の切り替えが追い付かないのでしょう。
真ん中の子の医療的ケアで、昼も夜も関係ないような生活
この状況をSNSで吐露したMさん(40代・埼玉県)に、どんな経緯でこの退会届を入手し、その後どうしたのか、聞かせてもらいました。
Mさんは子どもが3人いる母親です。現在、上の子は高校生、下の子は小学生。真ん中の子は医療的ケアが必要で、車椅子で生活しながら特別支援学校に通っています。
PTAのことでは、上の子が小学校にあがった十数年前から悩んできました。そのPTAでは「地区PTA」と呼ばれる、地区ごとの活動(朝の交通見守りや資源回収、町内会イベントの手伝い等)があるのですが、Mさんの地区は特に子どもの数が少なく、しょっちゅう役がまわってくるのです。
当時、Mさんは昼も夜も関係ないような生活を送っていました。真ん中の子は生まれてから2年間入院していましたが、上の子が4歳のときに退院。常につきっきりで、夜中もケアの必要があり、家の外の空気を吸えるのは「訪問看護の人が来てくれる週3日の、1回1時間」のみ。買い物に出られるその時間が唯一の息抜きで、「ディズニーランドに行くより楽しいくらいだった」と笑って振り返ります。
みんなの前で事情を説明するのがすごく辛い
地区PTAの役員は、1年おきに、3回まわってきました。Mさんは会合や活動があるたび、車椅子に乗った真ん中の子と、たんの吸引機などの医療機器を携えて参加していましたが、「かわいそうに、連れてこなければよくない?」といったひそひそ声が耳に入ることもあったそう。家にこの子を置いて出てくることなど、できるはずもないのに。
毎年クラス役員(委員)を決めるときは、みんなの前で事情を説明してきましたが、それも「実は、すごく辛かった」と話します。
「ママ友もなく、シーンとしたなか、全員の前で言わなきゃいけなくて。しかも言ってどうなるかは、わからない。一人でも『しょうがないよね』という声があれば、役員にならなかったりしたけれど、『みんな事情があるし』『うちだって親が』などと言う人がいれば『まあ、平等にいきましょう』と、役員がまわってくる。そうなるともう『言い損』になってしまうんです(苦笑)」
上の子の中学のPTAでは、推薦委員をやることになりました。クラス役員決めの日は真ん中の子の通院と重なり出席できなかったため、担任にはあらかじめ事情を話し「委員はできない」と伝えていたのですが、担任がそれを伝え忘れたようです。数日後、役員さんから「くじびきで委員に決まりましたよ!」と電話がかかってくることに。
「やれるときにはやろう」と自分から手を挙げたものの…
電話をかけてきた役員さんにも事情を話し、自分が休めばほかの人に迷惑をかけてしまうことなどを伝えましたが、「決め直すわけにもいかないので、今年はやってもらうしかない」との返事。Mさんはやむなく委員になり、真ん中の子と、当時2歳だった3人目の子を抱えて集まりに出席し、なんとか1年の活動をまっとうしたのでした。
その後は、下の子が保育園に入り、真ん中の子の体調がやや落ち着いてきたこともあり、Mさんは上の子が通う高校のPTAで委員をやることにしました。「いままでずっと断らなきゃいけなかったことが後ろめたかったから、やれるときにはやろう」と思い、自分から手を挙げたのです。
真ん中の子が通う特別支援学校のPTAでは、副会長など本部役員を4年間やりました。ここでは保護者が大体顔見知りで、卒業後に入る事業所の情報を得るという有意義な活動(「進路」と呼ばれる)もあり、いやだなと感じることはなかったそう。校長と保護者の意見交換の場や、保護者同士の交流の場の提供なども行っており、「役員がみんな支え合う雰囲気だった」こともよかったようです。
そして一昨年、下の子が小学校に入学。再び地区PTAの役員がまわってきて、1年間は活動したものの、Mさんは「もういいかな」と考え始めます。コロナ禍で活動は少なかったのですが、基本的なルールは上の子のときと変わらないまま。これまでいろんな種類のPTAにかかわってきて、「この小学校のPTAのやり方は、やっぱりおかしい」と感じ、退会を検討するようになったのです。
教頭先生から渡された退会届に、驚くような文言が
「上の子のときから積もっていたモヤモヤもありました。以前、地区PTAのクリスマス会に子どもたちを連れて行ったとき、『真ん中の子はこの地区PTAの子じゃないから、その子の分のお菓子やお弁当、おもちゃはない』って言われて。
好んで障害がある子になったわけでもないし、好んで地域外の学校(特別支援学校)に行ったわけでもない。それでもこの子はここに連れて来るしかないこの状況で、こんなふうに言われちゃうんだなって。すごく理不尽な感じがして。それもけっこう、ひきずっていたんですよね」
悔しい思いが蘇ったのか、電話口のMさんの声は少し震えているようでした。
悩んだ末、ようやくMさんが退会届をもらいにいったのが、昨年の11月。しかし、教頭先生から渡された退会届には、驚くような文言がありました。
「退会は毎年手続きが必要です」
「退会したことを周囲に話すことはお控えください」
なんだこれは…!? Mさんは衝撃を受けましたが、なんとか平静を保ち、教頭先生に電話で問い合わせます。
「今日明日変えられるものではない」と言うばかり
「『来年も退会届を出せ』といいますが、カード会社だろうがスポーツクラブだろうが、退会した人を年度が替わったらまた勝手に入会させるって、あり得ないでしょう。それに勝手に入会させるということは、退会した人の個人情報をPTAが持っているということですよね。それって学校にもPTAにも問題があるんじゃないですか?」
ところが、教頭は「そこはちょっとしょうがない」「確かに問題だけれど、今日明日には変えられない」などと逃げるばかり。Mさんも「確かに、すぐに変えるのは難しいだろう」と思い、しばらく待ってみましたが、3か月経っても何も返事はこないまま。今年の2月、ついに退会届を提出したのでした。
しかしそこで再び、びっくりすることに。翌々日に子どもが持ち帰ってきた「退会届の受理書」には、またもや同じ文言があったのです。
「退会は毎年手続きが必要です」
「退会したことを周囲に話すことはお控えください」
これ以上、教頭先生に言っても無駄なのか……。そう感じたMさんは、今度は教育委員会に電話で相談し、事情を説明しました。
退会後もさらに退会手続きが必要ということは、保護者の個人情報を勝手に使って自動入会させていることを意味し、学校の個人情報の取扱いに問題があるということ。
「人に話すな」というのは、私の表現の自由の侵害ではないか、ということ。
しかし残念なことに、教育委員会の担当者も教頭と同様、「今日明日変えられるものではない」と言うばかり。
Mさんは、教育委員会にも、PTAにも見切りをつけました。「退会はしたし、受理もされたので、もういいかなと。ちなみに来年、退会届は出さないつもりです(既に退会しているので)」ということです。
子どもにも『みんなと同じじゃない良さ』みたいな価値観を
なお、冒頭でも書いたように、PTAを退会すると「お子さんに記念品をあげません」などと言われることがよくあるのですが、今のところこういったことは言われておらず、Mさんからも特に確認はしていないそう。
「そもそもPTAが記念品を配ること自体に、私は疑問があります。みんなから集めたお金で、みんなでおそろいのものを買うのって、要らない人もいますよね。
学校がよく『裁縫道具セット』とか業者の封筒を配って、購入希望者にだけ販売しますが、PTAもこれと同じようにやればいいのに、と思います。『みんなと同じが安心』という人はそれを買えばいいし、ネットでもっと安くてかわいいのを買いたい人はそれを買えばいいですよね」
確かに、その通りだなと感じます。200~300円程度のものならまだしも、1000円近く、あるいはそれ以上のものを、不要なのに「買わされている」ような状況に疑問を抱いている人は多いでしょう。要る人が買う、を基本にしていけるとよいのですが。
「もしかしたら、これからうちは記念品を配られないかもしれませんが、それでもいいです。『みんなと同じじゃない良さ』みたいな価値観を、子どもにも持ってもらいたいと思うので」
割り切るのも選択の一つ
本当はPTAは、学校という公共の場で優先的な待遇を受けている以上、その学校に通うすべての子どもを対象に活動するのでなければおかしいはずです(詳しくは前回記事参照)。でも残念ながら、非会員家庭の子どもを活動の対象外としてしまうPTAも、未だにときどきあります。そんなPTAにあたってしまったときは、Mさんのように割り切るのも一つの選択でしょう。
PTAの活動実態は、学校によって大きく異なります。Mさんが役員を務めた真ん中の子の学校のPTAのように賛同できるものなら入ればいいですし、そうでないと感じるものなら入らなくてもよく、退会だって可能です。
この春、保護者も教職員も、PTAに入るか入らないかを自分の意思で決めてもらえたらと願います。
(大塚 玲子)