候補者のイメージを大きく左右する選挙ポスター。選挙区が広大な参院選では、有権者と直接顔を合わす機会も限られるため、各陣営は写真やレイアウトに工夫を凝らす。東日本大震災後の参院選では笑顔を避けたまじめな表情が多くなったが、最近では斜め上を見る「未来志向」タイプが人気。選挙ポスターのトレンドも時代に応じて変遷している。(北野裕子、井上浩平)
■「やる気」前面の野党
「人の第一印象は5秒で決まるとも言われる。ポスターという限られたスペースで、政治家としての信頼感や、やる気を表現する必要がある」
20年ほど前から選挙ポスター用の写真撮影を手がけている「スタジオ☆ディーバ」(東京都文京区)の担当者はこう指摘する。
同スタジオによると、新人候補は若さや愛嬌(あいきょう)、やる気を演出する表情やポーズを選ぶことが多い。野党の場合はベテランでも、よりやる気が伝わる1枚を望む傾向があるという。
選挙ポスターには国内の状況も反映される。多数の犠牲者を出した平成23年の東日本大震災後の各種選挙では、笑顔もポーズも手控えたまじめな表情の写真が使われるケースが目立った。一方、景気が良い時期は派手なアクセサリーをつけて撮影に臨む候補者もいたという。
■かつては“地域差”も
「国政選挙と地方選では写真の狙いが変わる」と選挙別の違いに言及するのは、東京や京都のスタジオでポスター用写真撮影を行う「TAKUMI JUN Make-up Salon」の内匠(たくみ)淳さん(54)だ。
候補者が少ない国政選挙では硬い表情で無難に撮影することが多いが、立候補者も当選者も多い地方議員選では、あえて有権者の特定層を狙い、奇をてらったものにする人もいる。
かつてのポスターには地域差もみられた。内匠さんによると、関西では20~30年前まで、変わったポーズやデザインで笑いに走るケースもあった。だが近年はポーズも控えめになり、笑顔のシンプルな写真が増えているという。今回の参院選大阪選挙区でも、笑顔で穏やかな雰囲気のものが目立つ。
■最近のトレンドは
実際にポスターの印象はどれくらい投票結果に影響するのか。拓殖大の浅野正彦教授(比較政治学)は、昭和55~平成29年に実施された衆院選について、笑顔の度合いを測定する機器を使って約7千人の立候補者を調査。候補者が4人以上の選挙区では、全く笑わない顔よりも笑顔の度合いが高い方が、得票率が高い傾向にあることが分かった。
現在のトレンドはどうか。選挙プランナーの松田馨さん(39)によると、ポスターを見る人と目線を合わせず斜め上を見ることで「未来志向」を想起させるものが人気。背景にこだわったポスターも増え、今春の統一地方選では背景が青空や緑で、一見選挙ポスターらしくないものがみられたという。
松田さんは「選挙ポスターは有権者が投票直前にも必ず確認する非常に重要なもの」と指摘。画像処理ソフトにより写真が大きく修正されるケースもみられるが、「現実の候補者を見て誰か分からなかったという笑い話もある。実物とあまりにも違っていたら有権者はがっかりするし、選挙戦で『盛りすぎ』は逆効果になる」と話す。