高齢化に伴って年間130万人以上が亡くなる「多死社会」を迎える中、火葬前の遺体を預かる「遺体安置ビジネス」が都市部を中心に広がっている。葬儀をせず火葬のみを行う「直葬(ちょくそう)」の増加や火葬場不足が背景にある。福岡県内では、直葬を行う業者が増え始めている。
福岡市博多区にある「福岡直葬センター」は、遺体を保管する冷蔵設備がある直葬の専用施設だ。冠婚葬祭業の「ラック」(福岡市)が運営。猪膝(いのひざ)武弘マネジャー(62)は「ご遺体をここで安置し、火葬場へ搬送します」と説明する。
直葬は、通夜や告別式をせず、火葬のみで済ませる葬儀形態。墓地埋葬法では、火葬は死後24時間を経過しなければ行えず、従来は自宅や葬儀場などに安置するケースが多かった。
福岡直葬センターはひつぎを収納することができる冷蔵設備を12体分そろえている。祭壇が置かれた個室もあり、遺族は時間を気にすることなく対面できる。遺体の保管料は24時間で1万2000円(税別、延長は同1万円)。火葬場への搬送を含めた費用は約18万円(税、火葬代別)だ。
2011年10月にオープン。経済的な理由や、離婚で家族と別離しているなどの事情で、希望する人が多いという。12年度は169件だったが、昨年度は452件と利用者は年々増加している。
葬儀情報サイトを運営する「鎌倉新書」(東京)の昨年のアンケートでは、直葬を行った人の割合は全体の5%。猪膝マネジャーは「最近は、ご本人が『葬儀で家族にお金をかけさせたくない』と生前に相談に来られるケースも増えている」と話す。
東京都や横浜市、大阪市など、関東や関西の人口密集地では、老朽化などによる統廃合で火葬場が不足する事態も遺体安置ビジネスのニーズを高めている。厚生労働省の集計では、16年度の全国の火葬場数は4181か所で、1996年度の8481か所から半減。横浜市では市営の火葬場は4か所のみで、平均4日程度待つという。
葬儀場で告別式などを行わない場合、火葬を待つ間は自宅に遺体を安置することになる。ひつぎをエレベーターなどに運び込めないマンション世帯が増えているほか、弔問客への応対を負担に感じる喪主も多い。JR新横浜駅近くで、遺体を一時的に預かる「遺体ホテル」を運営する葬祭場「ラステル新横浜」の担当者は「高齢化で需要は今後さらに伸びる」と見込む。
国立歴史民俗博物館の山田慎也准教授(民俗学)は、「少子高齢化や単身世帯の増加で家族構造が変わり、戦後から続いてきた告別式を中心とした葬儀のかたちが変わってきている」と指摘している。