「陰性」でも“誤判定”に注意 薬局で販売が始まったコロナ抗原検査キット、未承認の製品で苦情多数

 新型コロナウイルスの感染を手軽にセルフチェックできる「医療用の抗原検査キット」。厚生労働省は9月末に特例的に薬局での販売を解禁した。ただし、PCR検査と比べると精度が劣り、無症状者の利用には向かないため、陰性の確定診断には推奨されていない。しかも一部のドラッグストアやネット通販では未承認のキットが出回っており、選び方にも注意が必要だと専門家は指摘する。体調の自己管理に抗原検査キットを利用するには、どんな点に気をつけたらいいのだろうか。

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 季節の変わり目で急に寒くなった10月下旬。神奈川県在住の40代男性は、のどの痛み、鼻水、頭痛の症状が出た。数日前、3歳の息子が風邪をひいていたので、子どもからもらったのかもしれない。だが「もしコロナだったらどうしよう」と不安がよぎった。

 このタイミングで、小学生の長女が学校で配られた抗原検査キットを持ち帰ってきた。神奈川県は、子どもがいる家庭を対象に風邪症状がみられた場合に自ら検査ができるよう、キットを配布している。男性はさっそく試してみた。鼻に専用の綿棒を入れ、湿った綿棒をチューブ状の検体処理液に。チューブからキットに液体をたらし、待つこと30分。

「妻は医療従事者だし、もし感染していたら同居している家族への影響も大きい。結果を待つ時間が長く感じられました」(男性)

 結果、陰性を示すマークが浮かび上がった。家族一同、ほっと胸をなでおろしたという。

「乳幼児はしょっちゅう風邪をひくので、それが大人にうつって風邪の症状が出るというのはどの家庭でもよくあると思います。コロナかどうか一応確かめておきたい、というときに、抗原検査キットの結果は安心材料になると思いました」(同)

 医療機関での検査を担う「臨床検査技師」が所属する日本臨床衛生検査技師会の横地常広副会長は、感染していても陰性の結果が出る「偽陰性」に注意してほしいと呼びかける。

「簡易的な抗原検査キットでは、感染していても採取したサンプルのウイルス量が一定程度ないと陽性を判定できません。結果が陰性だったとしても『偽陰性』の可能性を常に疑ってほしい。症状があれば、第1選択として医療機関を受診してください。医療機関では、抗原検査キットを使って陰性の結果が出ても、症状がある場合は、より精度の高いPCR検査をして再確認します。それで陽性だったということも少なくありません」

 つまり、抗原検査キットで陰性だったとしても過信してはいけない、ということだ。また、症状がない時に使うとウイルス量が少なすぎて判定できないことがあるため「無症状者には向かない検査方法」だという。

「少し体調に異変を感じても医療機関を受診するまでもないという時に、抗原検査キットでセルフチェックをすることで、陽性だったら出勤や通学を止めるというブレーキにはなります。きちんとしたキットを、使い方や目的を理解して利用すれば、市中感染の拡大を防ぐ一助にはなるかと思います」(横地副会長)

 PCR検査よりも精度の劣る抗原検査キットだが、より効果的にセルフチェックに活用するためには、1回だけでなく2、3回連日で検査することを横地副会長はすすめる。

「自分で検体採取をする際、1回だけではうまく取れないことがあります。また1回目は陰性だったとしても、感染していたら2日目、3日目にウイルス量が増えていき、より陽性を検知しやすくなります」

 厚労省が薬局での販売を承認した抗原検査キットは15種類ある(10月11日時点)。購入する際は、薬局で薬剤師から説明を受け、キット使用時の留意点や検査後の対応などを明記した文書に署名が求められる。

 購入時に注意したいのは、一部のドラッグストアやネット通販では、厚労省が承認していないキットが売られていることだ。消費者庁によると、国民生活センターなどには、こうした検査キットに関する苦情が多く寄せられているという。

「『研究用』とパッケージに書いてあるキットを使って陰性だったのに、医療機関で調べたら陽性だったという苦情が、9月末までに80件ほど報告されています」(消費者庁)

「研究用」とは、薬機法の承認を得ていない雑品で、性能が確認されていない。厚労省と消費者庁は、こう注意を呼びかけている。

「未承認かどうかの見分け方として、国で承認した抗原検査キットには『体外診断用医薬品』と記載されています。現状、購入時に薬剤師から使い方の指導も受けてもらうようになっています」(消費者庁)

 政府は、ワクチン接種証明書などを提示することで行動制限を緩和する「ワクチン・検査パッケージ」の導入を目指している。ワクチン非接種者における陰性証明に、抗原検査キットの結果を活用することも検討されている。

「抗原検査キットという特性を踏まえながら、ウィズコロナの日常に向けてどのような体制を講じていくかを検討している段階です」(厚労省)

 これからの冬場は、風邪やインフルエンザなど、新型コロナと似た症状に悩む人が増えるだろう。さらには「第6波」の到来も懸念されている。抗原検査キットを正しく活用したい。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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