5G通信が普及し事業が多角化しつつある電機・電子、通信業界。大学通信はこれらの業界の有名企業への就職状況を大学ごとに調査し、卒業者数(大学院進学者を除く)に占める実就職率を公表している。ランキング上位は国立理系大が並ぶが、意外な大学もみられる。その理由とは。発売中のAERAムック『就職力で選ぶ大学2022』(朝日新聞出版)から紹介する。
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「電気機器・電子」編は、キヤノン、ソニー、東芝、パナソニックなど有名41社を対象としたランキングだ。ほかの業種別ランキングに比べると、各大学の実就職率は高い。さまざまな業種に就職する文系の大学と違い、同じ業界に入る学生が多いからだ。
上位3大学はいずれも国立大で、実就職率は10%を超える。1位は電気通信大。2017年、附属図書館に学修スペース「UEC Ambient Intelligence Agora」を設置。液晶ディスプレーやプロジェクター、ディープラーニング用のコンピュータなどの設備があり、学生による自由なAI研究のための空間が提供されている。2位の東京工業大は、学部と大学院を組み合わせた「学院」制度を取り入れている。大学院修了で電機メーカーに就職する学生も多い。3位は、18年の学科再編により宇宙システム工学科を開設した九州工業大だ。
ランキングを見ると、豊田工業大(4位)や豊橋技術科学大(5位)をはじめ、名古屋大(7位)、名古屋工業大(9位)など愛知県の大学が多いのも特徴だ。大学通信常務取締役の安田賢治さんはこう話す。
「愛知県の大学が強いのは、トヨタの関連企業への就職が多いからだと考えられます。愛知県の私立大は、トヨタ本体だけでなく、その関連企業に何人就職したかによって地元から評価されるともいわれています」
■国際教養大が上位の理由
8位には文系の秋田県の国際教養大がランクインした。04年に開学した公立大で、国際教養学部の1学部のみを有し、1年間の留学を義務づけることなどが特徴だ。
「国際教養大は、ほかの文系大からたくさん就職者が出るメガバンクなどを志望する学生が非常に少ない。留学中に、日本の強みはメーカーだと気づく学生が多いと聞きます。海外では日本のメガバンクは知られていないけれども、電機メーカーはみな知っている。こうした体験から、世界に通用する電機メーカーで、留学で培った英語力を生かそうとしています」(安田さん)
次に、「通信」編のランキングを見ていこう。NTT、KDDI、ソフトバンクの3大通信をはじめとした9社への実就職率をまとめたものだ。
顔ぶれは難関国立大や有名私立大が目立つ。「電気機器・電子」編ランキング1位の電気通信大が2位、同じく2位の東京工業大が3位。続いて卒業生との人脈連携が強力な一橋大が4位に入った。
■公立はこだて未来大が1位に
通信業界への実就職率は、公立はこだて未来大が突出して1位だ。なぜ北海道の大学がトップなのだろうか。
同大は2000年開学の比較的新しい大学だ。学部はシステム情報科学部のみ。数学やプログラミング、マイクロコンピュータを操作する実習などを行い、コンピュータ科学を基礎から理解していく。同大教務課就職担当の菊池信吾さんによれば、就職する学生のうち、およそ8割が情報通信業に勤めるという。
「情報通信業で働く卒業生も多く、学内でのキャリアガイダンスなどで、学生に仕事の内容を話していただく機会も設けています。また本学は、大手の通信系企業や電機メーカー出身の教員が多く、学生に前職のインターンシップを紹介するケースもあります」
同大のカリキュラムでは、3年次に「プロジェクト学習」を必修とする。学科・コースを超えたチームで一つのテーマに取り組み、7月の中間発表と12月の発表会に向け、学生主導で進められる。地域社会や企業と連携するプロジェクトが多く、過去には通信大手3社などと協力してスマートフォンのアプリサービスを開発したチームもある。
「自ら課題を発見し、解決するという社会人基礎力が身につくプログラムだと考えています。卒業生に『大学時代にやってよかったこと』を聞くと、企業出身の教員からの実務の場で生かされる実践的な指導も含め、こうしたグループワークが挙がることも多いと感じます」(菊池さん)
トップ5では唯一本州以外に位置する公立はこだて未来大。就職先企業の所在地を聞くと、「札幌など道内は2、3割」だという。
「函館を含む道南地方で就職する学生は少なく、およそ7割が首都圏の企業に就職しています。大手で自分の力を生かしたいという選社軸があるのだと思います」(菊池さん)
日本を代表する企業の優秀な人材は、北海道からも送り込まれている。
(白石圭)
【ランキングの見方】
大学通信調べ。アンケートに回答のあった549大学のうち、有名企業400社への実就職率が高かった20大学を掲載した。400社実就職率(%)は、400社への就職者数÷〔卒業(修了)者数-大学院進学者数〕×100で算出している。同率で順位が異なるのは、小数第2位以下の差によるもの。有名企業400社は、日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定した。卒業生100人未満の大学および一部未回答の東京大、慶應義塾大は対象外。
※AERAムック『就職力で選ぶ大学2022』より