「韓服騒動」を機に韓国人が意識し始めた宗主国・中国の残像

(立花 志音:在韓ライター)

 2022北京冬季オリンピックの開会式で、中国の少数民族の衣装として韓服の女性が登場したことが騒動になっている。

 韓国人は、「韓服は韓国の伝統衣装で中国のものではない。中国は韓国文化を略奪するつもりだ」と大騒ぎだ。筆者には、文化の略奪どころではなく、韓国そのものを中国が狙っていることの意思表示に感じる。韓国人は周辺国家の情勢に疎いのか、議論の視点がいつも主観的でずれている。

 現代の韓国で韓服を着る機会は減っている。暑い夏にお年寄りが麻素材の作務衣のような韓服を着ている姿を見かける程度だ。しかし最近、普段着のように着ることができる簡易型の「生活韓服」と呼ばれるものが、密かに流行している。

 個人的に筆者が最近韓服を着たのは、主人の弟夫婦の結婚式の時だ。韓国では身内が結婚する時、既婚の女性は韓服を着る。着物よりも簡単に着ることができて、クリーニングも楽なので筆者は割と気に入っている。

 我が家の末娘にとって、韓服は特別な日のための衣装である。旧正月と中秋、そして自分の誕生日。韓国の幼稚園では大体この3つの行事の時に、韓服を持ってくるようにとのお達しが出る。旧正月と中秋の前には、韓服を着て伝統料理を作ったり、昔ながらの遊びをしたりしながら伝統文化に触れる。

 筆者が住む韓国南西部には、伝統的な朝鮮の建築様式で建てられた「韓屋」が集まった街並みを再現した観光地があり、その街中を、韓服を着て歩く観光コースが人気だ。外国人の姿もたくさん見かける。レンタルショップには朝鮮時代の王様の衣装など様々なバリエーションがあり、当時にタイムスリップした気分を体験できる。

 誰もが韓服は韓国の伝統衣装だと思っている。それだけで十分ではないか。どこから来たとか、元祖が別にあるとか、そのような論争は必要なのか、非常に疑問である。

 韓国人は何かと自分たちの文化を略奪されたと騒ぐ。そのくせ日本から渡ってきたものも自分たちのもののように振る舞う。世界は韓国から始まったとでも言いたいかのようだ。

なぜ韓国人は何でも韓国起源にしたがる?

 海外に輸出されているK-ポップやキムチなどについては、世界中から愛されていることを嬉しそうに自慢している。

 キムチと言えば、2年ほど前に中国がキムチは中国発祥の伝統食品だという話を持ち出して、韓国ネットは炎上した。今回の韓服騒動も「キムチに続く文化工程(略奪計画)だ」と怒り心頭である。しかし、文化などというものは、伝わっていく過程でその風土に順応しながら、変化するものではないだろうか。

 例えば日本のラーメンは、日本の代表的グルメの一つである。札幌味噌ラーメンから、博多とんこつまで種類も豊富だ。外国人も日本旅行に来たらラーメンを食べて帰っていく。

 日本の食文化の一部になっているラーメンの発祥の地はどこか。言わずもがな中国である。ラーメン屋の看板にいまだ「中華そば」と表記しているお店もある。当初、日本人にとってラーメンは「中国から伝わってきたお蕎麦のようなもの」だったのだろう。しかし、ラーメンが原因で日中間の文化摩擦や起源争いの話は、まだ聞いたことがない。

 なぜ、韓国人は何でもかんでも韓国起源にしたがるのだろうか。中国と韓国の関係にフォーカスしてみると、中国に対する韓国人の劣等感とジレンマが垣間見える。

 中国は昔々チンギスハーンの時代から、朝鮮半島を属国とみなしてきた。それを認めない韓国人はいまだにいるが、韓国ドラマにも、歴代の王が中国支配の圧力に苦悩する姿がよく映し出されている。

 この国が自分の力で独立を勝ち取ったことが一度もない、ということも大きな理由の一つであろう。そして、そんなことは認められないし、あってはならないというプライドとコンプレックスの混合物とでも言おうか、その歪んだ何かが韓国人の感情スイッチをつかんで離さない。その感情スイッチが、韓国人の論理的思考を停止させ、逆ギレを発症させる。

 しかし、一部の韓国人の拠り所になっているのが、紀元前37年に初代王朱蒙が建国したとされる「高句麗」である。

今回の韓服騒動、中国の狙いとは

 全盛期の領土は中国東北部からロシアの日本海側沿岸部までに及んだと記されている。モンゴルの大国である「漢」と攻防戦を繰り返しながらも668年まで続いた高句麗時代を振り返り、「自分たちは強かった。もう一度その土地を取り返したい」と願う人もいる。

 韓国人のベースになっている反日感情は、国策で操作されているようなものである。歴代大統領は支持率が下がるたびに反日感情を煽り、国民の目を欺いてきた。学校でも反日教育を行い、日本に対する敵対心を刷り込まれているのだから、扇動されてしまう側になるのは必然的な話である。

 しかし、「NO JAPAN」不買運動が下火になった頃に筆者が聞いたのは、最近の若い世代の間では反日よりも反中が「トレンド」だという話だ。

 反日であれ反中であれ、韓国人の若い世代にとっては流行でファッションの一部のようなものだ。社会に対する不満と過剰なストレスを解消するツールの一つくらいなのであろう。そして、流行が終われば、不買運動もいつそんなことがあったのかくらいの勢いで消滅する。コンビニから日本のビールと抹茶味のキットカットが消えた日常に耐えている筆者には、非常に迷惑な話である。

 面白いことに、オリンピックの影響なのだろうか、今回の大統領選挙を韓中戦だと呼ぶ声をSNSで見かけた。その続きには「もう2度と鼻持ちならない中国の属国にはならない」と書かれている。

 与党の李在明候補は中国寄りで、保守政党の尹錫悦候補は反中国派という主張なのだろうか。そして、今回の韓服騒動は文化工程ではなく、韓国を支配したいと思っている中国側の意志の表れだということが分かっているのだろうか。

隣国の亡霊にとらわれる韓国の宿痾

 以前から韓国の左派勢力は国会議員総選挙の時に、保守政党を敵視させる目的で「今回の選挙は韓日戦だ」と叫び国民を扇動することがあった。自分たちは愛国者で相手は親日派の売国奴だという主張だろう。

 筆者も初めて聞いた時は、彼らが何を言っているのか分からなかった。日本が支配した時代はとっくの昔に終わっているのに、なぜ韓国の選挙に日本の文字が出てくるのか。とばっちりもいいところだ。自らの手で独立を勝ち取ったことのないこの国は、現在も常に日本の亡霊に取りつかれている。

 国内の選挙が都合によって「韓日戦」になり、また「韓中戦」になるこの国は、それだけ隣国の影響を受けずにはいられない国家なのだ。

 日本の亡霊に取りつかれていた韓国は、オリンピックと自国の民族衣装である韓服を機に、新たな「中国の残像」という巨大な怪物を目覚めさせてしまったようだ。

 このまま中国の残像に飲み込まれるのか、主権国家たる大韓民国を守り切れるのか。大統領選挙まであと1カ月弱、この国の国民はどのような選択をするのだろうか。

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