ことし2月、東北の太平洋岸に大雪を2度降らせた南岸低気圧。三陸沿岸は大しけとなり、宮城県内の養殖ワカメ産地には3年前の大震災の津波に続く被害が広がった。
収穫の8割方が海中に脱落した地区もあり、名産「十三浜わかめ」で知られる石巻市北上町十三浜では収穫が半減した。
「漁業者にとって自然のリスクはつきもの。だが、どうにもならない災害もある」。宮城県漁協十三浜支所運営委員長の佐藤清吾さん(72)は苦渋の表情を浮かべた。
全国に影響する品薄なのに、県内産ワカメは入札会で値が上がらず、十三浜産も10キロで8千円前後に。震災後の養殖復活1年目だった12年春には2万円台、昨春も1万円台の値がついていた。
「これが風評。(昨年7月22日に)福島第1原発汚染水流出が分かってからだ。買い付け業者も在庫をはけず、資金も意欲もなくなっている」
<「皆が借金」>
自宅があったのは十三浜大室集落。津波で壊滅し、妻と孫、本家の兄姉ら20人近い身内を亡くした。漁業者らは60年の歴史があるワカメに希望を託し、養殖設備購入のために「十三浜漁協わかめサポーター」を全国に呼び掛け資金を募った。
「多くの仲間が浜に残ってくれた。事情で石巻に移り、早朝のワカメ収穫に通う若い人もいる。皆が借金を抱え、船やボイル加工の油代も高い。復興へ体力を蓄えるべき時の減収は厳しい。『やっていけない』という声もある」と佐藤さん。
同県産ワカメは、昨年も風評による減収が約2億9000万円(組合共販分)に上ったとして、県漁協は東京電力に賠償を求めている。が、怒っても、市場で失われた地元ブランドは戻らない。
<女性ら作業>
大室集落跡にはいま、大テントの漁業共同作業場が立つ。5月10日の昼、白いキャップにかっぽう着の女性ら約30人が忙しく働いていた。
佐藤さんや十三浜支所職員が塩蔵ワカメを軽トラックで運び、女性らが仕分け、袋詰めに追われた。15キロ箱での発送先160カ所の住所は札幌から鹿児島まであった。
「被災地の産品の買い控えのことを聞いたが、十三浜の暮らしもワカメも、みんな身近なもの」
仙台市泉区の高橋かず子さん(61)は手を休めて言った。雑誌「婦人之友」の読者がつくる仙台友の会のメンバーだ。
同誌の仙台在住の女性記者が震災以来、十三浜に通って住民の苦闘を伝え、読者の支援に広がった。「ワカメから復興を」という「十三浜わかめクラブ」が発足し、昨春から全国の読者らが200グラム当たり500円で購入する活動を続ける。
「何度も訪れ、仮設住宅で出されたワカメの味に感激した。つくる人の顔や、(放射能検査の)データも分かる。もう商品棚では選べなくなった」と、同市太白区の山口佳恵さん(42)は語る。