福島第1原発事故発生以降、被災地を「食べて応援しよう」という機運が高まっている。東北や茨城県の農作物を扱う飲食店やアンテナショップは多く、農林水産省も「食べて被災地を応援」することを呼びかけ、今や国をあげた取り組みとなっている。
ところがその「食べて応援」に、ある福島の農家が異論を唱えている。
「足元見られてケツの毛毟られてるのが現実ですわ」
2011年6月から、震災後のいわき市の農業の実情について書いてきた「農家の婿のブログ」管理人だ。12月4日に「『食べて応援』は幻想だ」というタイトルのブログを更新している。
「農作物に放射性物質が入ってるんだから安くなって当然」という意見はもっともだし、自分でも4月の時点では現在の価格よりもっと安くなると思っていた。その上で「被災地を応援という大義名分に隠れてほくそ笑んでる連中がムカつくぜ」ということを言いたいのだという。
「米がね、業者にクソ安く買いたたかれてるんスよ それが食品会社やら、外食産業に流れ込んでるんですよ」「直聞き情報として1俵8000円提示 中通りの伝聞情報として、1俵5000円提示 野菜だって似たようなもんでしょう 今日1玉98円の白菜を見ましたよ」
「わかりますかね 農家儲かってねーっすよ 足元見られてケツの毛毟(むし)られてるのが現実ですわ まあ彼らは大抵こんなことを言ってたりしますね『私共は復興を支援しております。食べて応援しましょう!』ふところ温まってるのはテメー等だけだクソったれ」
自社の利益のために被災地支援という言葉を使う業者に、「本心から応援したいなら例年の定価で買え それが嫌なら綺麗事ぬかすんじゃねえ」ということを伝えたいようだ。
コメント欄には「福島県産、いたるところで見かけます。安くなるかと思いきや決して安くないですよ。不思議です」「仲介業者が私腹を肥やしているのが気に食いません」などブログの意見に同調するものが多かった。「食べて支援・食べて復興だと思ってるバカどもへ言いたいのは『本当に被災地の農家を応援したいなら現金送れよ』『直接、その農家さんから買い取れよ』ってことですよ」と、「食べて応援」という気持ち自体を批判する人もいた。「大企業が食べて応援キャンペーンをやってくれるのはありがたい」
ブログが更新されるとすぐさま、「これがこの国の現実でしょう。外食産業コスト削減第一だからなぁ」「原料米を農家から買い叩いておいて、売値は通常。利益ガッポリ。何が『食べて応援しよう』だ」などというコメントともにツイッターで広められた。
ブログ主には「福島の農作物が安くなるのは当然」という批判も届いたようで、自身のツイッターで「ブログであんなに前置きしたのになぜ誤解されるんだ…。買い叩きは市場原理からは当然の帰結で、やってるほうも悪いとは思ってないのに… ただそれを都合よく綺麗な理由をつけて正当化しようとすることに憤ってるだけで…」と付け足した。
ブログ記事の内容について、ある福島県の農業事業者に話を聞いたところ「中間業者が農作物を安く買い叩いて首都圏などで高く売るという話は、噂話としては聞いたことがあるが、どの会社がやっている、うちにも業者が来たなど具体的な話は聞いたことがありません」とのことだった。
その上で、「食べて応援」に求めることについて聞くと
「たとえば大手のレストランチェーンなどが『福島の食材を使用しています』と言ってキャンペーンをしてくれた方が、安全性が多くの人に伝わるという意味ではありがたいです。業者に不信感を持つ消費者にとっては、インターネット通販などを使って生産者から直接購入するのが一番いいと思います。サイト運営費など多少の上乗せはするが、儲けには走っていない直販サイトも多くあります。いずれにせよ最近、農産物から基準を超える放射性物質の数値が出ていることは確かなので、福島県の農家は信用を取り戻すためにこれからも頑張っていくしかありません」
と話してくれた。