優先席に寝転んで加熱式たばこを吸っていた男に「たばこを吸うのをやめてください」と注意した高校生が、逆ギレされて暴行を受けたJR宇都宮線の事件はまだ記憶に新しい。
事件のきっかけとなったのは喫煙だったが、ほかにも電車内のヤバい行為はたくさんある。たとえば、酔っぱらい、大声を上げるなどの奇行、セクハラやつきまとい……。
日常的に電車を利用していれば、誰でも一度はこうした迷惑行為に遭遇したことがあるはずだ。電車内で目撃された“ヤバい乗客”のエピソードを紹介しよう。(取材・文=押尾ダン/清談社)
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高校生に注意されてナイフを出す老人
電車内で遭遇する迷惑な乗客といえば、まず真っ先に思い浮かべるのが「酔っぱらい」だ。神戸市に住む会社員の男性(27歳)は先日、神戸市営地下鉄の車内でJR宇都宮線の事件を彷彿とさせる光景を目にしたという。
「得意先から会社に帰る途中だったので、午後2時ごろのことだったと思います。真っ昼間だというのに、パンクロッカーのようなファッションのおじいちゃんがウイスキーのボトルをラッパ飲みして、大声で何やらひとりごとを言っていたんです。
あまりにうるさいので、そのうち近くの男子高校生2人が『静かにしてください』とおじいちゃんに注意したんですね。すると、おじいちゃんは頭にきたらしく、ポケットに手を突っ込んで小型の折りたたみナイフを取り出したんです」
ひとつ間違えば殺傷事件に発展しかねない事態に、車両全体が騒然となったという。しかし、不幸中の幸いというべきか、酔っぱらいの男性はそれ以上の行為に及ぶことはなく、次の停車駅で駅員に取り押さえられてどこかに連行されていった。
「おじいちゃんは駅員に取り押さえられたとき、ハンカチを取り出して『違うんだ! このハンカチを切るためにナイフを出したんだ!』と言いわけをしていました」
これ以外にも酔っぱらいによる迷惑エピソードは多い。
「平日の夜、わりと混雑した小手指行きの西武池袋線に乗ったときのこと。近くで『プシュッ』という音がしたので見ると、スーツ姿の中年男性が立ったままストロング系缶チューハイを飲み始めたんです。しかも、カバンからツマミのスルメと貝ヒモを取り出して、くちゃくちゃと音を立てて食べながら。
アルコールとスルメの生臭い匂いが車内に充満し、かなりイラッとしました。ほかの乗客も舌打ちしたりして露骨に不快感を示したんですが、その中年男性はお構いなし。立ったまま“ひとり宴会”を続けていました」(女性、31歳、メーカー勤務)
「夜11時ごろに下りの京王線に乗っていたら、隣の車両から『大丈夫ですか!』という男性の大きな声が聞こえてきた。近づいてみると、人だかりが出来ていて、その中心に酔っぱらって『大丈夫ですか!』と叫ぶスーツ姿の若い男性がいました。
その男性は人間ほどの大きさの“何か”に向かって声をかけていたんですが、よく見ると、男性が『大丈夫ですか!』と声をかけていたのは黒いソフトケースに入ったギターだった。お前が大丈夫じゃないだろって」(男性、40歳、ソフトウェア開発)
「VAPEはたばこじゃない!」と逆ギレ
奈良市に住むグラフィックデザイナーの男性(33歳)は、JR宇都宮線の事件と同じように、電車内で喫煙をしていた乗客を注意して逆ギレされたことがあるという。
「京都駅から近鉄奈良駅に向かう特急に乗っていたとき、僕の前方に座る中年男性が加熱式たばこを吸い始めたんです。注意しようかどうか迷ったんですが、変な匂いがしてくるので、思い切ってその男性のところに注意しに行ったんですね。そうしたら、その男性に『ふざけるな! これはたばこじゃない、VAPE(ベイプ)だ! 言いがかりをつけるな!』とキレられました。
その男性が吸っていた加熱式たばこはニコチンが入っていないタイプらしく、『ニコチンが入っていない=たばこではない』という理屈のようでした。面倒くさいので車両を移動しましたが、VAPEだろうとなんだろうと、どう考えてもマナー違反でしょ」
こうした謎理論を掲げて電車内で迷惑行為をするケースはほかにもある。京王線沿線に住む接客業の女性(25歳)は、電車内でとんでもない乗客に遭遇したことがあるという。
「たしか平日の昼間だったと思いますが、『金子駅』というピカピカ光る電飾が施された服を身につけ、『金子駅』と書かれた手持ち看板を持った初老の男性が、『つつじヶ丘の駅名を元に戻せ!』と大声で叫びながら電車内を走り回っていたんですよ。
なんでも、開業時の京王線つつじヶ丘駅は『金子駅』という駅名だったそうで、金子駅に戻すために電車内で叫び続けているみたいです。とにかく男性の声がうるさくて迷惑で、赤ちゃんが泣き出したくらいでした」
股間を触りながら電車内で若い女性を追い回す
しかし、電車内で見かけるヤバい人という意味では、やはりその筆頭は女性に性的ないやがらせをする乗客だろう。とくに近年は電車内で女性につきまとうストーカー行為が増えている。
総武線沿線に住む会社員の男性(29歳)は、千葉方面に向かう総武線の空席が目立つ車内で、若い女性に執拗につきまとうヤバい乗客を目撃したことがあるという。
「20歳前後の若い男の子なんですが、席はいくらでも空いているのに、わざわざ若い女性の隣にピタッと座るんです。隣に座られた女性にすれば、やっぱりキモいじゃないですか。そこで車両を移動したんですが、それでもついていって隣に座る。
しかも、女性に話しかけてナンパするわけでもなく、押し黙ったまま、ただ隣にじっと座っている。男性の僕から見ても非常に不気味でした。外見は普通の男の子なんですが……」
これと似たようなケースを目撃したと話すのは、Web関連の企業につとめる男性(36歳)だ。終電間際の西武新宿線、本川越・拝島方面行きに西武新宿駅から乗車したときに、若い女性の隣に座ってヤバい動きをする乗客に遭遇したのだという。
「空いている車内で電車が出るのを待っていたら、水商売風の40代の男性がキョロキョロしながら歩いてきて、わざわざ僕の斜め前の女性の隣に座ったんです。そして、右手で自分の股間を触りながら、血走った目で女性に『お、俺とヤラない?』って。
女性はギョッとして隣の車両に逃げたんですが、それでも男は追いかけて隣に座り、股間を触りながら女性を誘う。そして、逃げられると元の車両に戻ってきて、また別の女性の隣に座るんです。やっぱり股間を触りながら。あんなヤバいやつは初めて見ました」
これらのヤバい乗客や迷惑行為は極端なケースだが、けっして他人事ではない。たとえば、酒に酔った状態での乗車、車内での飲食などは、多くの人も身に覚えがある行為のはずだ。
車内が混雑しているのに足を伸ばして座る、イヤホンから音漏れしているなど、知らず知らずにやってしまっている迷惑行為も多い。ぜひこうしたヤバい乗客を他山の石としてほしい。
(清談社)