全面否定の高市氏
放送法の「政治的公平」の解釈をめぐる総務省の行政文書が漏えいした問題。野党側の追及にさらされる高市早苗経済安全保障担当相は総務省が「行政文書」であることを認めても、「文書は不正確だ」だとの姿勢を貫いている。「捏造」と断じた部分が事実だとしたら、閣僚や議員を辞職すると国会で表明した高市氏の問題について告発の黒幕が取り沙汰される中、今後どのような展開を見せるのか?
これまでの流れを駆け足で振り返っておこう。
「第2次安倍内閣時代の礒崎陽輔補佐官(総務省出身)が放送法の政治的公平の解釈を巡り総務省と協議したことなどが記された行政文書を立憲民主党の小西洋之参院議員(総務省出身)が公表しました」
と、政治部デスク。
「一連の政治報道に対して官邸の圧力があったことについて、当時総務相だった高市氏は自身に関連する記述を否定し、文書を捏造と言い切りました。加えて、文書が事実なら閣僚や議員を辞職すると表明したのです」(同)
追及も沙汰止みに
「高市氏が捏造という言葉を使ってしまったばかりに、野党側やその支持層がいろめきたち、そうなると保守勢力も高市擁護の論陣を徹底的に張りました。結果として、高市氏が辞める・辞めないという話だけに注目が集まり、文書が本当か否かということに焦点が集まりました」(同)
追及を率先した小西参院議員や、なんらかの形で文書を漏えいさせた総務省の関係者が意図した「官邸の圧力」論争とは距離が広まってしまったわけだ。
「総務省はその後、捏造の事実を認めていませんが、一方で正確性が担保できないとの見方を示しています。高市氏はというと一貫して文書は不正確だの主張を続けました。2023年度当初予算案が3月28日の参院本会議で可決・成立すればその後に予算委員会が開かれる予定はなく、野党による高市氏への追及も沙汰止みになりそうな気配があります。立憲側にもなんとなく厭戦(えんせん)気分が漂っています」(同)
文書の正確性云々とは別の次元の問題として、行政文書を正式な手続き抜きで小西議員に渡した官僚がいたとすれば、そちらのほうが問題だという指摘もある。この件を長引かせると実はダメージを受けるのは小西議員だ、という見方である。
岸田首相の捉え方は?
この件を岸田文雄首相はどう捉えてきたのか?
「更迭すべきだと岸田首相に進言した重要閣僚や自民党執行部の幹部もいましたが、表向きは24日の参院予算委員会で”いきなり更迭うんぬんはあまりに論理が飛躍している”と述べたようなスタンスでいるようです。実際、更迭すべき明確な理由はなく、無理やり探しても国会の混乱くらいしか思い浮かびません。高市氏の問題は岸田首相に関係していないので、首相自身それほど関心がないようです。更迭すべき理由が出てくれば躊躇しないとは思いますが、そうはならない可能性が高いと見られています」(同)
仮に岸田首相がどっしりと腰を落ち着けていられたのだとしたら、予算案の成立が憲法の規定で決まっていたということもあるだろう。野党側は、予算案の成立を人質に取って高市氏更迭を迫る審議拒否戦術を採ることができなかったからだ。
「当時から高市氏とソリが合わなかった総務省の最高幹部が黒幕だという説は根強くありますが、その人物が表に出て何か発言するといったことはなさそうです」(同)
高市氏への私怨が告発のきっかけか
実のところ、仮に「捏造」「辞任」発言がなければ、この件はここまでの注目を集めなかっただろう。リークした側の動機は、高市氏への私怨が告発のきっかけと見られている。ちなみに小西議員は総務省出身なので、知人が多いのは間違いない。
「それにしては詰めが甘いと言うか、彼女のクビを取れるネタではないように感じてきましたし、実際そうはなっていません。そもそも高市氏はNHKに対しては厳しい態度を見せてきましたが、民放に圧力をかけたというようなことはないでしょう。むしろ頼れる存在だったという面もある。事実、今回の文書を見ても、別に民放を彼女が攻撃したとか、厳しい対応を総務省側に指示したといったことは読み取れません。その意味では民放は高市氏に恩義があるので、今回の件について一部の番組を除き徹底的な批判は控えているように映りますね。一言でいえば冷静な印象です」(同)
今後の展開については?
「国会で質問の時間がないとなれば、取り上げられる機会も減りますから、国民の記憶も薄まって行くことになるでしょう。高市氏の方も年内にはありそうな内閣改造で交代することは不可避と見られます。捏造という極めて強い言葉を使ってしまったのは良くなかったと評されていますが……」(同)
小西議員はいまだ意気軒昂で、ツイッターを使って高市氏批判を繰り返し、また自身に対するコメントの一部に対して「法的措置」を取ると連呼しているのだが、大山鳴動して鼠一匹という言葉が浮かぶような展開なのだ。
デイリー新潮編集部