北陸新幹線が来春に金沢まで開業し、東京と2時間台で結ばれる石川、富山両県が首都圏をターゲットに積極的な観光誘致を展開している。京都にとって東海道新幹線による所要時間の優位性が薄れることになり、観光に加え大学生の確保などにも影響が出かねず、関係者は警戒を強めている。
「北陸新幹線は希望の光だ。東京との交流が増えれば、『石川は西日本文化圏』という意識も変わるかもしれない」。石川県東京事務所の担当者は、上越新幹線と特急で4時間近くかかる東京-金沢間が、2時間半に短縮することに期待を膨らませる。
観光やビジネスで同県を訪れる人は、特急で2時間半程度の関西圏が250万人で首都圏の234万人よりもやや多い。
しかし、来年に首都圏からの来訪者が急増する見通しで、県は500万人に倍増させる目標を掲げる。昨年から加賀百万石の武家文化と新鮮な日本海の幸を前面に首都圏でのPRを強化し、女性雑誌で観光特集なども展開中だ。金沢市も小気味よいキャッチフレーズ「ちょっと、金沢まで。」を東京メトロで宣伝している。
東京から2時間20分の京都市。昨年に過去最多の観光客5162万人を記録し、首都圏から約1千万人が訪れている。市東京事務所は「武家文化の金沢とはすみ分けられるし、京都は観光地の質量で圧倒している」と静観の構えだが、「京都を年3回訪れる首都圏からのリピーターで、1回を金沢に変える人もでるのでは」と指摘する関係者もいる。
大学も危機感を募らせる。石川県内の高校生の大学進学先は関西圏が首都圏よりもやや多いが、学生を東京にとられかねない。立命館大は昨年から石川県内の高校訪問で、「首都圏より生活費が安い」など京都で生活する利点を前面に出して学生確保に力を入れている。
一方、首都圏の大学は開業を好機とみて攻勢に出ており、東洋大(東京都文京区)は夏休み中に訪れる石川、富山両県内の高校数を例年の4倍に増やし、「説明会や受験バックアップ講座を現地で開催できるようにアピールする」(加藤建二入試部長)と意気込む。
立命館大にとって福井を含めた北陸3県は学部生数が1千人を超える重点エリアの一つで、入学センターの宮下明大次長は「関西に目が向いている高校生が首都圏の大学に流れないようにしたい」と強調する。
とはいえ、北陸関係者の視線は関西から首都圏に向いており、JR東日本も「北陸の熱気はわれわれの想像以上」と昨年4月にエリア外初の営業センターを金沢市に開設した。富山県も本年度から県東京事務所を首都圏本部に組織強化するなど、京都の強力なライバルになりそうだ。