「2024年問題」まで残り1年余、このままではトラックドライバー不足で荷物が運べなくなる事態も

 年末を間近に控えた昨年12月、新潟県長岡市などでは大雪に見舞われてスーパーの店頭に商品が届かない、といった事態が一部で発生した。テレビニュースなどで食料品の棚が空になっている映像が流されたので、ご記憶の方も多いと思う。

 品切れの原因は明らかだ。大雪のため国道8号線で一時は約800台の車が立ち往生。また、約20キロメートル、40時間近くにわたって通行止めになった。動けなくなったり通行止めの影響を受けた車の中には営業用トラックもある。そのため店頭に商品が届かず食料品などが品切れになった。これは大雪の影響によるもので、天候の回復に伴って通常通りに商品供給ができるようになった。

 だが、2024年4月以降は店頭の品切れが常態化する可能性が危惧されている。それがトラック運送業界における「2024年問題」だ。

トラックドライバーは全産業平均より約2割長く働いているが、年間の時間外労働の上限を960時間にするのが「2024年問題」

 2024年4月から自動車運転業務(トラックドライバー)の時間外労働の上限が罰則付きで年960時間になる。それによって発生が予想される諸課題や影響を総称するのが「2024年問題」である。

 まず、多くのトラック運送事業者がこの規制をクリアするのが難しいという実態がある。また、対応できたとしても生産性が変わらなければドライバー不足がより深刻化する。これまで1人のドライバーが運んでいた荷物を複数のドライバーで運ぶことになるからだ。つまり、ドライバー不足で荷物が運べなくなってしまう可能性が「2024年問題」といえる。店頭における品切れや、ネット通販で購入した商品がなかなか届かない、といったことが日常化するかも知れない。

 一般には、大企業は2019年4月から、中小企業でも2020年4月から時間外労働の上限規制が年720時間になっている。だが、トラックドライバーはそれより240時間(月平均20時間)も長い上限規制にも拘わらず対応が難しい。トラックドライバーがいかに長時間労働を強いられているかを証明している。同時に、日本の物流がトラックドライバーの長時間労働によって支えられている実態を如実に表している。

 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」などから国土交通省が作成した資料によると、トラックドライバーの年間労働時間は大型車で2544時間、中小型車で2484時間である(2021年)。全産業では2112時間なので、トラックドライバーは18~20%も長い時間働いていることになる。

 一方、収入は全産業の年間所得額489万円に対して、大型車のドライバーは463万円、中小型車では431万円だ。全産業に比べて5~10%も低い。年間賃金を年間労働時間で単純に割ると全産業の時給は2315円になる。だが、大型ドライバーは1820円、中小型では1735円にしかならない。ここからもトラックドライバーは長時間働いているのに収入が少ないことが分かる。

トラックドライバーの有効求人倍率は全産業平均のほぼ2倍で推移、このままでは輸送能力の34.1%(9.4億トン)不足という推計も

 現在もトラックドライバー不足は深刻である。厚労省の有効求人倍率をみると、各月によって多少の変動はあるが全産業平均より約2倍の水準で推移している。

 そのような中で「2024年問題」まで残り1年余。生産性が変わらなければ、これまで1人のドライバーが年間960時間を超える時間外労働で運んでいた荷物分を、2024年4月以降は他のドライバーが代わって運ばなければならない。そのためドライバー不足がいま以上に深刻化する。

 さらに、2024年4月から施行される「改正改善基準告示」が、トラックドライバー不足に拍車をかける。「改善基準告示」は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(1989年労働省告示第7号)の略称である。トラック、バス、タクシー・ハイヤーなど自動車運転を職業にしている人たちの拘束時間の上限や、休憩、休息時間などの基準を設けたものだ。トラック、バス、タクシー・ハイヤーでそれぞれに基準が設定されている。

 自動車の職業運転者は不規則勤務や長時間労働になりやすい。とりわけトラックドライバーは脳・心臓疾患による労災支給決定件数が多い職種だ。「改善基準告示」によって長時間労働を防ぐのはドライバーの健康管理が目的だが、事故防止など社会的な安全確保にも関連してくる。

 トラックドライバーの長時間労働の大きな要因の一つに、取引先(荷主)との関係がある。荷物の積込み(荷卸し)の指定時間に着車しても長時間待機させられる(5、6時間のケースも)、手積みや手卸しを無料でさせられる(過重労働)、荷主都合で出発時間が予定より遅れても到着時間の厳守が求められる(運行途中での休憩や休息時間の確保難)、といった強要である。そのため「改善基準告示」は荷主に対する過重労働強要の抑制という意義もある。

 この「改善基準告示」が改正され、2024年4月から施行になる。連続運転時間、休憩時間、休息時間などの基準の改正に伴い、トラックドライバー不足がより深刻化する。NX総合研究所では「2024年問題」と「改正改善基準告示」の影響を合わせると、2030年には輸送能力の34.1%(9.4億トン)が不足すると推計している。

持続可能な物流に不可欠なトラック輸送、ドライバーの労働条件改善に必要な原資の確保には「標準的な運賃」の実現が急務

 総務省が2022年4月に発表した「人口推計」によると、2021年10月1日現在の日本人の人口は1億2278万人で、1年間に61万8000人も減少した。同時点で日本人の人口が一番少ないのは鳥取県の54万4000人なので、同県の人口より7万4000人も多い日本人が1年間に減少している。

 人口が減れば食料品や飲料水、衣料品、日用雑貨など消費財の需要が縮小するので、消費関連貨物の輸送量も減少する。消費財を生産する工場などの設備投資も減ると考えられるので、建設関連貨物(民需用)や生産関連貨物の輸送量も減少することになる。だが、それでも当面の間はトラックドライバーの不足が続く。

 国内貨物は鉄道、自動車(営業用、自家用)、内航海運、国内航空によって運ばれている。このうち重量ベースでみると営業用自動車は国内総輸送量の約6割、自家用自動車が約3割を運んでいる。そのような中で、全体としては国内貨物輸送量が減少しても、営業用自動車は輸送量が増加すると予想されている。その理由は、輸送効率が劣る自家用自動車から営業用へのシフトが進むからだ。

 国内のトラック台数のうち営業用トラックの台数は約2割しかない。自家用トラックが約8割を占めている。しかし、国内貨物輸送量の6割を担っているのが営業用トラックで、自家用トラックは約3割に過ぎない。輸送効率の違いが明らかだ。

 自家用トラックの輸送効率が劣るのは、法律上で自分の荷物しか運べないからである。今後、需要が縮小して自社の荷物が減れば、輸送効率がいっそう悪くなる。そのため営業用トラックへの転換が進むと予想される。

 さらに、小売市場ではネット通販の利用が拡大する。ネット通販では宅配が必要不可欠だが、宅配は企業間物流よりも人手と手間暇がかかる。ドライバー不足をいっそう促進することになる。

 トラックドライバー不足を解消するには労働条件の改善が必要だ。単純計算だが、先にみたように全産業の平均時給に対して、ドライバーは大型車で495円、中小型車では580円も安い。これを是正しようというのが「標準的な運賃」だ。

 「標準的な運賃」は、2018年12月に改正された貨物自動車運送事業法で、トラックドライバーの労働条件改善の原資確保を目的に、2024年3月末までの時限措置として設けられた。しかし、この「標準的な運賃」の実現がなかなか難しい状況にある。

 この1年で多くの商品が値上がりした。さらに今後も値上げが予定されている。値上げの理由として挙げられるのが原材料価格や物流費の高騰である。だが、トラック運賃はさほど上がっていない。日本銀行の企業向けサービス価格指数(2015年=100)で道路貨物輸送をみると、2022年10月の速報値は111.5で、3年前の2019年11月の110.4に対して僅か1.1ポイントしか上がっていない。だが、外航貨物輸送は3年間に53.9ポイントも上昇した。「物流費の高騰」は国内のトラック運賃ではなく、輸入にかかる物流コストである。

 一方、実運送事業者のコスト転嫁を阻害してる要因の一つに、トラック運送業界の多層構造もある。昨年暮れに公正取引委員会が、適正な価格転嫁をめぐり、発注者が下請事業者と協議することなく価格を据え置いたなどとして13社の社名を公表した。そのうちの5社が物流の元請事業者だった。また、経済産業省が発表した中小企業の価格転嫁の状況では、コスト上昇分の価格転嫁率が一番低い業種がトラック運送となっている。

 なお、「標準的な運賃」は元請事業者や中間に介在する事業者ではなく、実際に荷物を運んでいる実運送事業者の運賃とされている。

 これらの諸課題を克服してドライバーの労働条件を改善し、ドライバー不足を解消しなければ荷物が運べなくなるかも知れない。「2024年問題」のリミットは1年余に迫っている。

 今年1年は多くの人たちに、トラック運送業界の動向を注視していただきたい。

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