新型コロナウイルスの感染防止のため、密閉、密集、密接の「3密」を避ける動きが広まる中、利用客と近距離で接する理美容業界から悲鳴が上がっている。理容店のオーナーらからは「3密を完全に回避するのは難しい」との声も。利用客が入れ替わるたびに換気をしたり、店舗での衛生対策を写真共有アプリでPRするなど工夫を凝らしている。
滋賀県野洲市西河原で理容店「BarBer Kawase(バーバーカワセ)」を営む河瀬稔大さん(38)は「市内で感染者が出て一気に緊張感が高まった。今はお客さんの話題もコロナばかり」とこぼす。
同店では少しでも利用客の心配を取り除こうと、入り口に消毒液を設置。カットに臨む際にはマスクを着用するほか、利用客が入れ替わるたびに窓やドアを開けて空気を入れ替え、ドアノブや直接顔に触れるカミソリなどのアルコール消毒を徹底しているという。
東京都は6日、緊急事態宣言が出された場合、理容店(床面積100平方メートル以下を除く)へ休業を要請する方針を打ち出した一方で、西村康稔経済再生担当相が7日、衆院議院運営委員会で、宣言が発令された後でも理容店は営業が可能との認識を示すなど業界を取り巻く状況は揺れている。
「大阪や東京ではもっと厳しい状況みたいですよ」と、河瀬さんが示すのは、写真共有アプリ「インスタグラム」に開設された大阪の理容店のアカウントだ。河瀬さんの店舗と同様の取り組みに加え、過去14日以内に感染者が発生した国への渡航歴がある人や、同居家族に疑い例がある人たちの予約を制限する旨を告知していた。「自分の店でもこういった対応も考えなければいけなくなるのかもしれない」と河瀬さん。
美容業界からは物資の不足を訴える声もあがる。県内約500の美容室が加盟する県美容業生活衛生同業組合には「スタッフが布マスクをしていた。使い捨てマスクに比べて不衛生だ」とのクレームが寄せられたという。担当者は「消毒液もマスクも手に入らない。営業努力以前の問題で休まざるを得ないところも出てきている」と明かす。加盟店の9割以上が小規模な個人経営店といい、「長引けば死活問題だ」(担当者)と危機感を強めている。
業界が求めているのは、正確な情報だ。河瀬さんは「理容師は衛生管理のプロだ。コロナについても抑えるべきポイントがもっと明確になったら、より安心してサービスを提供できる」と行政などに感染拡大予防のための情報提供を望む。「クラブのように(感染の危険が高い場所と)名指しされたら、閉めざるを得ないが、社会が暗い雰囲気だからこそ、髪を切ってさっぱりしてほしい」と話していた。(花輪理徳)