「4強」狙う日産・三菱自連合 新型軽の実力は?ライバルも注視

 日産自動車と三菱自動車が6月上旬、共同で開発した新型軽自動車を発売する。燃費はガソリン1リットル当たり29.2キロと背高ワゴンでトップレベルを誇る。最低価格は105万円超となる見通しだ。両社とも国内の最量販車種として売り込む構えをみせており、軽では下位にとどまる「日産・三菱自連合」が一躍、台風の目になるとの見方も少なくない。ダイハツ工業、スズキ、ホンダの上位3メーカーが保ってきた牙城の切り崩しに成功すれば、軽市場は「4強時代」に突入。拡大する需要の取り込みを狙う各社の開発・販売競争は、さらに過熱しそうだ。
 「日産と三菱自動車がどこまで本気で軽を販売するのか。そこを見極めたい」。ライバルの軽メーカー大手幹部がこう話すのは、両社の意図を図りかねているからだ。というのも、日産が「DAYZ(デイズ)」、三菱自が「eKワゴン」の車名で販売する新型の軽は、それぞれの主力小型車「マーチ」と「ミラージュ」を燃費性能で上回るだけでなく、同じような価格帯だけに、共食いとなる可能性もはらむ。さらに、共同開発ながらも生産は三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)が全量を手がけることから、「自社生産ではない日産の思惑が読み切れない」とライバルは疑念をぬぐい去れない。
 軽に軸足を置くのか、それとも小型車重視の姿勢を変えないのか-。軽へのシフトが鮮明になれば、ライバル側も「こちらも本気で対抗策を講じないといけない」と身構える。日産・三菱自連合の新型軽は、背高ワゴンと呼ばれる売れ筋モデルのスズキ「ワゴンR」、ダイハツ「ムーヴ」と同じタイプ。信号待ちなどの停車時にエンジンを自動で停止するアイドリングストップや無段変速機(CVT)を搭載し、高い燃費性能を誇る。
 「(3強に)真っ向から勝負を仕掛ける」と幹部が意気込む三菱自は、2014年3月までに計4万5000台の販売を計画しているとみられ、軽全体の底上げも狙う。日産は三菱自の3倍に当たる2100店の販売網を生かし、月に1万台以上の売れ行きを狙っているもようだ。両社の本気度は決して低くない。
 両社は今月8日、発売まで約3カ月のタイミングで新型軽の外観だけを公表する異例の行動に出た。新年度を控えた需要期に情報を小出しにすることで、ライバル車の購入をユーザーにためらわせる効果を見込む。実際、他社の系列販売店からは「デザインはさすがに素晴らしい」と警戒する声が上がった。
 これに対し、「N BOX」などが好調で1~2月に前年同期比55.6%増の7万2356台を売り、軽の販売シェアを21.3%と2割台に乗せたホンダは「小型車『フィット』からの乗り換えもいとわない」(幹部)という戦略をとる。1~2月の国内販売が43.0%減の2万8736台と落ち込んだ登録車より、軽を重視する姿勢が鮮明だ。
 一方、ダイハツは「ホンダが軽に本格参入したことで競争は激しくなるが、低燃費と低価格を武器にトップシェアを維持する」(伊奈功一社長)と宣言し、燃費の向上やデザインの大幅な変更を図った「ムーヴ」を昨年末に投入。一部改良にとどまらない積極的なテコ入れもあって、1~2月の軽販売シェアは31.2%を確保し、28.5%のスズキを上回った。もっとも、連合を組む日産、三菱には急拡大する軽需要の取り込みで後れを取った焦りがあることは否めない。
 エコカー補助金の恩恵で各社が販売を伸ばした昨年の需要期に、日産はOEM(相手先ブランドによる生産)供給をスズキから要望通り受けられなかったことも響き、登録車も含む2012年の新車販売シェアは前年の2位から5位への転落。三菱自は大手8社の中で唯一、販売台数が前年を割り込んだ。
 特に日産は、スズキからのOEM調達を一部打ち切り、三菱自との共同開発に社運を賭けただけに危機感は相当強い。今月25日には来年に発売する軽第2弾の車名を「DAYZ ROOX(デイズ ルークス)」にすると発表。イメージ写真も公開し、関心を高めようと懸命だ。日産、三菱自はいずれも新車販売の反転増を軽の拡販に託す。
 ただ日産はマーチだけでなく、販売が好調な小型車「ノート」と軽のすみ分けという課題を抱え、三菱自はヒット車が見当たらない登録車のてこ入れも急務。経営資源の振り分けで慎重なかじ取りを迫られる状態が、両社とも当分続きそうだ。(飯田耕司)

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