日本囲碁界が世界の頂点を目指して、ナショナルチーム「GO・碁・ジャパン」を創設した。10日に韓国で行われる国際棋戦には、史上初の6冠を達成した“天才棋士”、井山裕太五冠(24)らが代表メンバーとして出場する。個人競技の囲碁でサッカーや野球のようにチームを組む背景には、強い日本の復活とともに、注目度を高めることで囲碁人気の拡大につなげたい狙いがあるようだ。(伊藤洋一)
「世界で勝てるようになってほしい」
先月、日本棋院と関西棋院が共同で創設したナショナルチーム。構想のきっかけは、日本棋院の和田紀夫理事長(72)に関係者から寄せられた切実な思いだった。昨年6月に理事長に就任した和田氏が、囲碁普及への協力を求めて企業などを訪問するたび、繰り返し注文されたという。
◆「強い日本」復活へ
3~5世紀ごろに中国から伝来し、かつては日本の“お家芸”といわれた囲碁。1970年代には日本のトップ棋士が中国や韓国に出向いて指導するなど、先進国の役割を果たしてきた。だが21世紀に入ると、若手の成長著しい中韓勢の躍進で日本勢の成績は低迷。
「何度も国際棋戦に出ているのに結果を残せず、タイトル保持者として申し訳ない気持ちでいっぱい」と先月20日、チーム創設の会見で井山五冠が話したように、日本勢は10年近く国際棋戦での優勝から遠ざかっていた。
今月10日に韓国・江陵市で行われるLG杯は、ナショナルチームとして臨む、初の国際棋戦だ。
従来は賞金ランク順に出場を打診し、その棋士が国内戦に重ならなければ参加していたが、今年度からはチームの監督を務める山城宏九段(54)らが、勝てそうな棋士を送り込む。LG杯には井山五冠や羽根直樹九段(36)ら4人、7月9日から北京市で行われる夢百合杯には結城聡十段(41)はじめ3人の派遣が決まっている。
チーム創設に当たり、和田理事長は「サッカーや野球の代表チームには、ふだん観戦しない人たちも関心を寄せる。同様に、ナショナルチームに選ばれることが棋士の刺激となり、よい成績を残すことで囲碁に興味をもつ人を増やす-。そういう好循環になってほしい」と語った。
◆チーム強化に課題
もちろん、ファン層の拡大には勝つことが重要だ。ただサッカーなどと違い、あくまでも囲碁は個人競技。チーム力を強化するのは見当違いにも映る。
「団体戦の前にはメンバーで強化合宿を開催し、相手の棋風を研究することも考えている。頻繁に全員が集まることは難しいが、チーム入りした棋士同士がインターネット上で対局し、練習を積む方法もある」と山城九段。
日本の棋士は対局日以外、個人で実戦棋譜を並べるか、同一門下や気の合う仲間、同世代の小人数が集まって練習対局している。ナショナルチームでは、ふだんとは違う相手と“出げいこ”することで、新たな戦い方を身につけ、国際棋戦に備える構えだ。
◆若手に経験を伝授
これまで日本の囲碁は、競技というよりも芸術の側面が強く、個人の技能を磨くことに重きが置かれてきた。それが中国、韓国の後塵(こうじん)を拝することになり、注目されなくなった一因との反省が、囲碁界内部にはある。
その反省から、チームのメンバーでコーチも兼任する張栩(ちょうう)九段(33)が「世界で戦える環境づくりを提案していきたい」と話せば、山下敬吾名人(34)も「国際棋戦での経験を若手に伝えたい」と、巻き返しに向け強い決意を示す。
今回のメンバーに選ばれたのは、賞金ランク上位者や若手棋戦優勝者、女流棋士ら30人。このほか、将来のナショナルチームを担う人材として20歳以下の全棋士も育成枠で登録した。
「将来的には再び世界で一番になれるよう、若手棋士を鍛えていきたい」と意気込む山城九段。先の長い戦いは、始まったばかりだ。