「iPad」で在宅勤務 4割節電に成功

【すごいぞ!ニッポンのキーテク】 産業界を挙げて節電に奮闘した今夏、ソフトバンクグループは自社製品を徹底活用することで、本社ビルでは昨夏に比べ4割以上の使用電力量削減に成功した。通信設備を24時間稼働させる通信事業者は製造業などに比べ節電対策はオフィス部分などに限られるが、自社の携帯情報端末を活用した在宅勤務システムを全面導入することなどで、業務形態の変革も成し遂げた。
 昨年冬、ソフトバンクは米アップルのスマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」やタブレット型端末「iPad(アイパッド)」をグループ主要企業に配布し始めた。いずれも事務作業に活用するためだが、作業中に東日本大震災が発生。節電や事業継続計画(BCP)の重要性が高まったことに対応し、ソフトバンクテレコムが開発した在宅勤務支援システム(Daas)「ホワイトクラウド デスクトップサービス」をグループ主要企業に全面導入することにした。
 Daasは、パソコンと同じ操作環境をアイパッドなどの端末で実現した。パソコンを持ち運ぶ必要がなく、自宅でも出張中でもオフィスにいるときと同様の作業ができる。在宅勤務の支援機能に加え、災害時を想定したBCPとしても活用できる。
 5月まではソフトバンクテレコム社内で運用していたが、これをパッケージ化して外販を始めた6月にはグループ企業に全面導入。現在はソフトバンク本体のほか、テレコムとモバイル、BB、ウィルコムの5社、約2万人が利用している。
 ソフトバンク総務企画部の吉岡紋子リソース管理課長は「クラウド対応した業務システムをアイパッドでいろいろ試していた時期に震災が起きてBCPへの対応が急務になり、在宅勤務システムと連携させることになった」とシステム開発の経緯を説明する。
 システム構築に当たっては、自社業務に合わせた改良より、「一気に全面導入すること」(吉岡課長)を優先した。そのため、カスタマイズなどにかかる余計な時間を省き、短時間で全社稼働にこぎ着けた。
 ソフトバンクグループ全体の今夏の節電は前年比39%減を達成した。他の企業と同様、空調温度設定の上昇、照明用電力などの節減の節電効果が大きい。アイパッドとDaasを連携利用したことによる直接的な節電効果は3%減と大きくはない。しかし、波及効果としてデスク用スタンドやプリンター、コピー機の省エネモード設定などによるOA機器の総合的な電力使用量は、本社ビルの場合、昨年のピークだった8月24日(午後2~4時)に比べ11%減少した。
 在宅勤務の導入は、副次的効果ももたらした。オフィスのペーパーレス化だ。吉岡課長は「当初はメールやスケジュール管理程度の利用範囲だったが、アイパッドを日常的に使うようになって会議の前の資料も端末で情報共有するようになり、紙による資料配布が激減した」と予想外の効果を説明。会議前の情報共有で会議の効率も向上したという。
 資料作成が激減したことで「社内向けの資料配付は8~9割減ったのではないか」(吉岡課長)と実感。ペーパーレス化による環境保全効果を集計中という。電力不足は今冬、来夏も続きそうな情勢だが、ソフトバンクのオフィス節電策は環境対策としても効果を発揮したようだ。(芳賀由明)

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