「L字回復」は不可避か、求められる失業者急増対策

[東京 12日 ロイター] – 新型コロナウイルスの終息時期が見えないため、社会的距離の維持を求める「新生活スタイル」が社会の規範になる勢いとなっている。その結果、飲食業や観光業、運輸業など「集客」がメインの業界は、コロナ前の業績を回復させるのが難しくなっている。米連邦準備理事会(FRB)幹部からも「L字回復」予想が浮上。日米ともに、失業者の急増にどのように対応するのかが喫緊の課題だ。

また、日本では居住地以外の都道府県への移動自粛を継続した場合、夏休みの行楽需要は大打撃を受けかねず、政府は「感染阻止」と「経済再開」を勘案した計画を早急に示し、国民が夏以降の計画を立てられるような「予見可能性」を高めてほしい。

<FRB幹部はL字回復予想>

経済再開への期待感の高まりで株価が堅調な米国だが、FRB当局者は今後の展開に慎重だ。ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は8日、封鎖措置による「壊滅的な」雇用喪失からの回復は「残念ながらゆっくりで長い時間がかかる」と予想した。サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は、景気回復は「急速なものとはならず、私の見方では、V字型ではなく、緩やかなものになる」と語った。

4月米雇用統計では、非農業部門雇用者数が2050万人減少し、1930年代の代行恐慌以降、最大の落ち込みとなった。この60%以上がサービス業従事者だが、社会的距離の維持が今後も要求される中で、サービス業の業容が短期的に戻るシナリオが描けない。

例えば、大型の映画館や劇場、レストランなどでは、従来の定員の半分ないし3分の1の顧客しか収容できなくなるだろう。各事業者は客数が減った分、単価の引き上げか売り上げ減少の甘受という2つの選択肢のうち、どちらを選ぶだろうか。将来の不安を抱えているままでは、売り上げ減少を覚悟してビジネスを再開するケースが増えると予想する。

この場合、解雇された従業員の半分ないし3分の1しか、再雇用されないだろう。FRB幹部がⅤ字回復に否定的なのは、こうした社会的距離の制約を見越しているためだと思われる。

<NRIの木内氏、失業率6.1%に上昇と試算>

同じことは日本でも起きる。その結果、需要回復が見込めない零細な事業者がアルバイトなど非正規社員を解雇し、その先に正規社員の解雇につながる展開が予想される。政府は雇用調整助成金の活用を強調しているが、公的資金の申請手続きに慣れていない事業者の中には、申請を断念している人も多いという。

また、慣れない事業者に代わって申請を代行するビジネスも登場しているようだが、「手数料」と称して助成金の30%を要求するケースもあり、この制度の効果が出ないような事情も発生している。

こうした結果も加わり、今後、失業者が急増することが十分に予想できる。野村総合研究所・エグゼクティブ・エコノミスト(元日銀審議委員)の木内登英氏は、2020年に265万人が職を失い、失業率はピーク時に6.1%まで上昇すると試算している。

<他の都道府県への移動、自粛継続なのか>

もう一つ気がかりなのは、緊急事態宣言が解除された場合に、居住地以外の都道府県への移動自粛がどうなるのかということだ。仮に5月31日の段階で、東京都を含め全国で解除されたとしても、当面は他の都道府県への移動を自粛してほしいと政府が表明すれば、観光や運輸に関連する幅広い産業で需要回復への幅広いダメージが発生しそうだ。

「長距離移動」に関する自粛や規制をどのようにするのか、政府は5月中にはっきりさせるべきだ。この点があいまいでは、7月以降の夏休みにレジャーを実行に移せるかどうか、一般の国民は判断できない。

また、野球やサッカーなどのプロスポーツでは、選手やスタッフらが大所帯で移動する。だが、今までの政府の見解では、その移動が可能なのかどうかはっきりしないところが多い。

<コロナ前の「あの日に帰れない」>

このように考えると、緊急事態宣言が解除されても、コロナ前の社会活動が完全に戻ることは難しい。「あの日に帰れない」とすれば、政府は需要減少が予想される産業分野を予めピックアップし、再編や合理化などへの支援策の検討を始めるべきだ。

また、アフターコロナで台頭が予想される分野をてこ入れすることも必要だ。失業者を、有望な分野に誘導する対応策も検討するべきだ。

政府が2020年度第1次補正予算で1兆6700億円を盛り込んだ「Go To キャンペーン」では、社会的距離の維持を前提にした新たなビジネスモデルを構築しなければ、投資額に見合った需要の喚起はおぼつかないだろう。

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