「10年後を考えるとぞっとする」 消えゆく宮城の医師会看護学校、高まる不安

 宮城県内で医師会が運営する准看護師・看護師の養成学校が、相次いで閉校に追い込まれている。気仙沼市では今春までに2校が歴史に幕を下ろし、塩釜、大崎両市でも一部を閉じる方針。入学者の減少と運営を巡る財政難が背景にある。地元の医療機関に多くの専門職を供給してきた学校の消失に、将来の人材確保を不安視する声が上がる。
(気仙沼総局・藤井かをり)

減る入学者、財政難で苦境

 気仙沼市医師会は2022年度末に付属の准看護学校(2年課程)、23年度末に定時制で3年を修業年限とする高等看護学校(同)を閉じた。14年度に169人だった准看護学校と高等看護学校の学生総数は、20年度に99人まで減少。やむなく存続を断念した。

 「地域医療に必要なことだから熱意を持って学校を守り続けてきたが、会費で運営を支え続けるのは財政的に限界だった」。市内で内科医院を営む医師会の森田潔会長は振り返る。

 全国で医師会が運営する准看護師・看護師の養成学校は入学者が激減している(グラフ)。准看護師の学校は17年に比べて応募者が約3分の1となり、2年課程で学ぶ看護師の学校はほぼ半減した。

 宮城県内では24年度末に塩釜医師会付属の准看護学院(塩釜市)、26年度末に大崎市医師会付属の准看護学校(大崎市)が閉校を予定する。県の高等看護学校(名取市)も23年度でなくなるなど、人材養成機関が次々に消えている。

 気仙沼市医師会の関係者によると、准看護学校入学者の約9割は地元の高校生だった。卒業後は地域の医療機関に勤務しながら高等看護学校に通い、看護師資格を取得。そのまま勤め続ける割合が高かった。

 市内には唯一、市立病院付属看護専門学校(3年課程)が残る。8月に同校で開催されたオープンキャンパスには県内外の高校生らが集まった。市内の高校に通う3年の女子生徒は「病院に併設され、医師や看護師から直接講義を受けられるのが魅力」と話した。

 大学に比べて学費は大幅に安く、地元での進学希望者に一定のニーズはあるが、同校も近年は入学者の落ち込みが顕著になっている。昨年度から2年連続で定員40人を下回り、本年度はわずか14人にとどまった。市病院事業局は公募推薦枠を設けたり、指定校の推薦枠を拡充したりして入学者確保に苦労している。

 看護や介護職の協力が欠かせない医療現場からは、将来的な担い手不足を懸念する声が上がる。医師会の森田会長は「10年後の地域医療を考えると、ぞっとする思いがする」と話し、危機感を募らせる。

[准看護師・看護師]准看護師は都道府県が実施する試験を受けて知事から許可を受けるのに対し、看護師は国家試験の合格を経て厚生労働大臣から免許を受ける。保健師助産師看護師法によると、准看護師は業務を実施する上で医師や看護師らの指示を必要とするとされている。

看護系学部増で学生争奪

 医師会運営の准看護師・看護師養成学校が各地で苦境に立たされている問題は、さまざまな要因が絡み合っている。若年人口の減少やコロナ禍で浮き彫りになった業務の過酷さによる人気の低迷だけでなく、看護系学部などの増加で高校生の大学志向が高まっている影響も大きいとされる。

仙台、関東圏へ流出

 東北6県で看護師養成の学科・専攻がある大学や短大は地図の通り。2000年以降に各地の国立大で設置が進み、私立大も追随する形になっている。

 看護系開設を巡る直近10年間の動きをみると、宮城県内では18年に仙台赤門短大が設立された。今春に仙台青葉学院大が開学し、短大の学科を改組して4年制の学部となった。他県でも青森と岩手で2大学ずつ、福島で1大学に設置された。

 気仙沼市立病院付属看護専門学校を運営する市病院事業局経営企画課の畠山正浩課長は「仙台や関東圏の看護系大学への進学を目指す傾向が強まり、少ない学生を奪い合う構図になっている」と現状を説明する。

 日本医師会は22年、厚生労働省に提出した地域医療に関する要望書で「看護系大学の増加や大学志向が顕著になっているが、大学卒業者の県内就業率は全体的に低く、必ずしも地域の看護職確保に直結しているとは言えない」と指摘した。

 同会の釜萢敏常任理事(現副会長)は23年7月の記者会見で「地域に養成所がなくなってしまえば、地域外や県外への人材流出につながり、地元への定着が困難になる」と強調した。

 看護師などの養成に関して医師会が10月に公表した24年調査結果によると、全国の看護系大学と看護学校(3年課程)の入学者合計も5年間で2260人減少している。看護職を志す人材は縮小しており、将来的な地域医療の維持に向けた対応を国に求めている。

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