「4時間正社員」とパートタイム化する「擬似ホワイトカラー」

話題の「4時間正社員」は、「擬似ホワイトカラー」のパートタイム化を象徴している。旧来のフルタイム正社員は身分喪失と地位低下を恐れるだろうが、生産性で勝負する世界は労働者にとっても望ましい。
 勤務時間を限定する「4時間正社員」「6時間制社員」が話題だ。
「女優・宮崎あおいさんが異国で出会った人と、流暢な現地語でクールなやり取りを繰り広げる――。印象的なテレビCMに見覚えがある人も少なくないだろう。これを展開するレディスアパレルが、クロスカンパニーだ。基幹ブランド『アースミュージック&エコロジー』を中心に現在、国内で500店舗以上を展開し、今年度(2014年1月期)に売上高1000億円の大台を達成する見込みである。
 実はクロスカンパニーは、創業時から『全員正社員』を掲げ、その95%が女性、しかも平均年齢25歳と“女子”が活躍する企業でもある。日本で初めて『4時間正社員』制度を導入するなど、積極的に働く女性の支援を行っている」(東洋経済オンラインの記事Link より)
 おそらくこうした記事を読んだ時、多くの日本人は「全員正社員」という言葉に惹かれるはずだ。非正規雇用の不安定さが問題視される今、正社員という安定性への関心は高い。
 しかし、従来から短時間労働で比較的安定性が高い働き方というのは存在した。そう、いわゆる“パートタイム”である。ただ、その仕事内容は単純労働とされてきた。
 一方で、専門性や責任を伴う労働は、ホワイトカラーである正社員が担ってきたというのが建て前だった。ここで「建て前」と言ったのは、実質的には長時間労働を自己目的化した正社員が少なくなかったからである。生産性は必ずしも高くないが、長時間働けば年収はそれなりに高くなる。日本の正社員というのは、年収=長時間労働ありきという側面が強い。
 拙著『仕事より身分が欲しい日本人』Link (電子書籍、アマゾンKindleLink ・楽天koboLink ・パブーLink で購入可能)でも紹介したように、長時間労働ありきのホワイトカラーは「擬似ホワイトカラー」と言うべきだ。
「国際基準としてのホワイトカラーの定義について明らかにしておきたい。なぜなら、筆者の国際経験からすると、海外で『ホワイトカラー』と呼ばれる人々は、単に大学を出たというだけではなく、自己管理能力をも有していることが必須だからだ。(略)本質的にはブルーカラーにすぎない『擬似ホワイトカラー』が大半を占めていることにある。それを日本社会の横並び主義から本人たちが誤解してしまったこと、高度成長期に人材不足から学卒者全員をホワイトカラー扱いしたこと、それらの結果として高学歴だが国際標準で見るとホワイトカラーの実力を有さない『擬似ホワイトカラー』が大量生産されることになった」(小野五郎『外国人労働者受け入れは日本をダメにする』洋泉社より)
 従来のフルタイム正社員が「擬似ホワイトカラー」なら、「4時間正社員」は“パートタイム化された擬似ホワイトカラー”と言えるだろう。専門性や責任を伴いながら、あくまでも(管理された)生産性=短時間労働で勝負する。「4時間正社員」の本質は、正社員という“身分”による安定性ではなく、正社員の評価基準の転換にあると思う。と同時に、働く側の意識の転換も影響している。
 同記事でクロスカンパニーの石川社長は「まず岡山県だけで4、6時間勤務の営業員募集を実験的にやってみたら、8時間の正社員募集を圧倒的に上回る3倍の履歴書が届きました」と述べている。まさにワーク・ライフ・バランスの観点から労働者は仕事を選ぶようになっているということだ。従来は単純労働しかパートタイムで働けなかったが、「4時間正社員」なら専門性も発揮できるし、責任のある仕事をすることもできる。そこに年収=長時間労働ありきの姿勢はない。
 石川社長は「これはやってみてから気が付いたのですが、逆に4時間正社員は1時間当たりの労働生産性が高いんです」とも言っている。私も以前から主婦パートの生産性の高さ、サービス提供力の高さには驚くことが多かったが、同じようなことが「4時間正社員」でも起きているのだろう。
 旧来型のフルタイム正社員を抱えるコストがますます高まる現状では、「擬似ホワイトカラー」のパートタイム化が進んでいくはずだ。一方で、パートタイム化が難しい高度な自己管理能力を要するホワイトカラーは、少数精鋭で残っていく(こちらはこちらで労働時間に縛られないようになるからますます“フルタイム”の意味はなくなる)。年収=長時間労働にこだわる人にとっては“身分”の喪失と“地位”の低下という危機かもしれない。しかし、“仕事”に応じて報酬をもらうという働き方は、仕事も人生も両方楽しみたい多くの労働者にとってプラスとなる。

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