2018年末、師走のCM界に一つの衝撃が走りました。それは、TBSテレビの『SASUKE2018』とフジテレビの『フジボクシング2018』で、「6秒CM」と「Picture in Picture」を組み合わせたまったく新しい形のCMが放映されたことでした。画面左側に番組本編を、右側に6秒CMを並行して映し出すこの手法は、非常に高い注視度を獲得しました。こうした新しい手法は、米国でも試験的な運用が始まったばかりです。それらはいったいどのような手法なのでしょか。また、15秒CM、30秒CMが一般的な日本のCM市場における実現性を解説します。
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米国の大手広告主が短尺CMに力を入れる理由
これまでCMで主流だったのは15秒や30秒といったフォーマットでした。近年、YouTubeのバンパー広告(6秒以下のスキップできない動画広告)等、様々な動画フォーマットが登場したことにより、広告主は新しいトライアルを重ね知見を蓄えてきました。
米国のテレビ局はこうした動きに危機感を覚えるとともに、CM枠数を増やすことにも限界を迎えているという現状があります。そこでCM枠の価値向上、すなわち「一つのCM枠の単価をどう上げるか」という大きなテーマに取り組みはじめました。
その流れの一つとして米放送局のFOXは、2017年8月に、ティーンエイジャーをターゲットとするの番組で試験的に「6秒CM」を放映しました。また同じくFOXは、2018年に「2020年までにプライムタイム1時間あたりの広告枠を2分以内に抑える」 と宣言しています(関連記事はこちら) 。
ARF(Advertising Research Foundation)とTVISION INSIGHTSによる独自調査では、2017年12月~2018年4月の5ヵ月間で50の広告主が3,300種類の短尺CMを実験的に出稿していることがわかりました。
中でも、ブランドごとの短尺CMの割合が最も高かったのは大手電池メーカーのDuracell(デュラセル)です。期間中に出稿した全CMの36%が短尺CMでした。デュラセルが扱っているのは差別化しにくい商材であり、かつAmazonのプライベートブランドからの追い上げという厳しい競争状況の中、ブランド想起を効果的に上げるために、短尺CMの出稿を前のめりに推し進めています。短尺CMがインプレッションに占める割合を見てみると、デュラセルの場合、短尺CMがインプレッションの49%を占めていました。
トヨタやペプシ等、先進企業の短尺CMの活用法
飲料メーカーのPepsi(ペプシ)は、先進的な取り組みを率先して試していくスタイルで有名です。また、日本企業では、トヨタが短尺CMの出稿に意欲的に取り組んでいますが、実際に広告主は短尺CMをどのような場面・目的で活用しているのでしょうか。
Premium Focus:限られた地域でプレミアムコンテンツを放映。少ない出稿本数で莫大なインプレッションを獲得するのが目的。リーチを形成するために利用している。
活用企業:トヨタ、ウェンディーズ、スプリント等Multi-Airing Cable:あらゆるタイプのコンテンツにすみずみまで出稿。できるだけ多く出稿するが、インプレッションは少なくても良い。フリークエンシーの構築が目的。
活用企業:ペプシ、メソセリアエイド、コールドイージー等Hybrid Strategy:プレミアムコンテンツにも、一般的なコンテンツにも両方出稿。ユニークな出稿も行いつつ、大量のインプレッションも狙うことで、効果を最大化するのが目的。
活用企業:デュラセル
また、一日のうちの時間帯別放送シェアを見てみると、短尺CMの3分の1以上がプライムタイムの放送に集中していることがわかります。広告主としても、取り入れた以上、力の入った取り組みになっていることが見てとれます。それと相対するインプレッション数で見ても、50%がプライムタイムに集中していました。
短時間で強いインパクトをもたらす「6秒CM」
短尺CMの効果について見てみると、短尺CMはすべての年齢層において、15秒と30秒の広告と比べて、1秒あたり8~11%高い注視を集めることが明らかになっています。
また、ARFとTVISION INSIGHTSによる注視度(Attention Index:テレビ画面に視線が向いている度合い)の調査によると、短尺CMには以下のような効果があることが明らかになりました。
●すべての年代で注視度が高くなり、特に50代以上で高くなる傾向がある
●デジタルと異なり、年齢による注視度に差はあまりない
●テレビの総視聴時間が短い視聴者層の間で、非常に注視度が高くなる傾向がある
若年層がYouTubeのバンパー広告を見慣れていることを考えると、効果は若い人だけに限られるのではと考え思ってしまいがちですが、中高年にも効果的であることがわかってきています。
また、テレビの視聴時間が短い視聴者とはすなわち、普段テレビをあまり見ないライトビューワーであるものの、広告主としては逃さず捉えておきたい層です。ライトビューワーの注視度が高い短尺CMは、これから先、評価が高まっていく可能性の高いフォーマットだと言えるでしょう 。
総合的な効果についてはまだ検証中ですが、短尺CMは、短時間で強いインパクトを与え、アテンションをキープさせる力が強いのではないかというのが現段階での仮説です 。
米国では既に、高視聴率が見込めるスポーツ番組を中心に、短尺CMが高単価で取り引きされています。とはいえ、総合的な効果についてはまだ検証中の部分が多く、素材一つにしても、6秒CMで使う素材については、ほとんどの広告主がYouTubeのバンパー広告をそのまま転用するか、15秒CMの短縮バージョンを使うことが多いのが実情です。どういった形がテレビの6秒CMにおいてベストなのかは、さらなる探求が必要です。
それでも、こうした新手法に広告主・テレビ局がともに積極的なのは、双方にWin-Winの効果が望めるという期待感があるからであり、探究はこれからもどんどん進められていくと思われます。
日本でも始まった「6秒CM」の動き
一方、日本においても一部の広告主が、「6秒CM」や「Picture In Picture」の活用に取り組みはじめました。
特に2018年12月には「6秒CM」×「Picture In Picture」のハイブリッドな試みが行われました(関連ニュースはこちら)。博報堂DYメディアパートナーズとTBSテレビが共同で企画し、12月31日の『SASUKE2018』FINALステージ内で放映されました(広告主:ソフトバンク/2018年12月31日18:00~23:55内で5回)。また、同時期に放映されたフジテレビ『フジボクシング2018』(広告主:日清食品/2018年12月30日19:00~21:05内で4回)でも同様の試みが行われました。
この2つの番組では、本編の途中で画面が切り替わり、画面左側に番組本編を、右側に6秒CMを並行して同時に映し出すこれまでにない画面構成を取り入れ、視聴者をひきつけました。放送されたそれぞれの番組を分析すると、個人全体の注視度は番組内CM平均値(6秒CM除く)よりも高い結果となったのです。
実は、こうした取り組みはまったく新しいわけでもありません。日本でも過去に、ローカル番組で番組本編内に「6秒CM」風のコンテンツを放映した事例もありますし、一例ですが短尺CMの概念がほぼ登場していない2010年頃、5秒CMが放映されたこともありました。当時5秒CMを放映したのは、シャープ「プラズマクラスター」、キリンビバレッジ「ファイア」、日本コカ・コーラ「ジョージア」の3銘柄だったそうです。短尺の目新しさで視聴者をひきつけ、売り上げ増を狙うのが目的だったようです。
とはいえ、過去の経験が充分に蓄積されているとは言い難く、上述した取り組みを見ても、今はまだ模索期というところです。「6秒CM」という新手法を商品としてどう定義づけるかという問題から、価格、クリエイティブ制作まで乗り越えるべき障壁はまだたくさんあるでしょう。
しかし、大きなきっかけがあれば、「6秒CM」は一気に広がっていくかもしれません。広告主もテレビ局も前例のない新たな取り組みで今後、より市場を開拓していかなければいけない中で、フォーマットの柔軟性による効果向上は、引き続きテレビマーケティングの一環として強い関心を呼び寄せるものとなるでしょう。