「eスポーツの急な盛り上がりに正直戸惑っている」「選手は置いていかれている感じがする」——8月21日に開催されたポップカルチャーとテクノロジーのイベント「YouGoEX 2018」で、現役のプロゲーマーなどゲーム関係者らが、日本のeスポーツの現状や課題、今後の展望について議論した。今年に入って日本では急に「eスポーツ」という言葉が各メディアで大きく取り上げられ、現場では戸惑いの声も少なくないという(Twitchのアーカイブ)。
日本は韓国や中国などの近隣国や欧米諸国と比べ、“eスポーツ後進国”といわれていたが、今年2月に日本国内のeスポーツ普及を推進する新団体「日本eスポーツ連合」(英語名:Japan esports Union、JeSU)が設立され、賞金付き大会を開催したり、大会の成績上位者にプロライセンスを発行したりと、業界として大きな動きがあった。
また、吉本興業がeスポーツ事業への参入を表明し、サイバーエージェント子会社のCyber Zが、エイベックス・エンタテインメント、Cygames、ウルトラゲームスらと合同でスマートフォン向けカードゲーム「シャドウバース」の国内初となるプロリーグを設立するなど、企業もeスポーツ産業に大きな関心を示している。
ゲーム関係者にとって、eスポーツ産業が盛り上がるのは本来喜ばしいことに思えるが、現場では「eスポーツの急な盛り上がり」に戸惑う声も上がっている。
「爆発的な普及に混乱」
ゲームイベントで実況を務めるアールさん(@papatiwawa)は、「中の人からすると、eスポーツの爆発的な普及に戸惑いもある。今は(現場が)混乱しているなと見受けられる」と率直な意見を述べた。「eスポーツに参入したい大企業の相談も増えた。しかし、みんな自分の所で(eスポーツ事業を)やりたいと思っているので、どこに落ち着くのだろうかと思う。ユーザーやコミュニティーが幸せになる落としどころを探りたい」(アールさん)
2015年に「ウルトラストリートファイター IV」の世界大会で優勝したプロ格闘ゲーマーのかずのこ選手(@kazunoko0215)は、日本と海外ではプロゲーマーの扱いに差があると話す。
「海外はeスポーツが浸透しているので、プレイヤーをアスリート扱いしてくれるが、そういう意味で日本は遅れている。最近はメディアの取材も増え、海外に追い付こう、eスポーツを盛り上げようとしているのは分かるが、プレイヤー的には置いていかれている感じがする」と本音を明かした。
プロゲーマーはどんな人?
かつてコンピュータゲームは、「ゲームをすると視力が落ちる」「ゲームをやるとバカになる」などネガティブなイメージが先行してきた。最近はeスポーツという言葉が広まり、プロゲーマーは「スポーツ選手と同じように競技に打ち込むアスリート」というイメージが少しずつ世間に浸透してきている。
かずのこ選手は「夕方から朝まで、1日10時間以上は練習する」と話す。日本のプロゲーミングチーム「Rascal Jester」でコーチを務め、現役時代はLeague of Legendsの選手だったリールベルトさん(@Lillebelt_lol)も「(プロゲーマーは)四六時中、練習なり研究なりゲーム関連の何かをやっている人というイメージ」と語った。
テレビのドキュメンタリー番組などでも、ストイックに長時間練習に打ち込むプロゲーマーの姿を目にすることが増えた。しかし、そもそも“プロゲーマー”の定義が曖昧なこともあり、その姿も一枚岩ではない。
日本eスポーツ連合からプロライセンスを発行され、スマートフォンゲーム「パズル&ドラゴンズ」(パズドラ)のプロプレイヤーになった中学2年生のゆわ選手(@yuw_i)は「自分は特訓などをしているつもりはなく、(パズドラを)楽しんでいる」と話す。
ゆわ選手はパズドラのプレイに必要なスマートフォンを学校に持っていけないため、平日はほとんどゲームをしないという。常にゲームの戦略について考えているわけでもない。「大会前に(戦略について)考えることはあるが、普段は何もしない」と語った。
さまざまな環境に身を置く選手がいる中で、日本のeスポーツ業界はどう変わっていくのか。
興行ノウハウない日本
日本でeスポーツは盛り上がるのか。ゲーム配信プラットフォーム「Twitch」日本オフィスに勤める中村鮎葉さん(@ayuha167)は、「日本は全人口に対してゲーマー人口が多く、(Twitchなどで)ゲームの映像を見る人もすごく多い。統計的に見ると、ゲームやeスポーツは結構いけるんじゃないか」と前向きだ。
しかし、超えるべき壁もある。
まずは、興行としてeスポーツイベントを成立させるノウハウだ。世界では数千人から数万人を動員するスタジアムやホテルなどを舞台に世界大会が繰り広げられているが、日本ではまだその経験が乏しい。数万人を集客するゲームイベントのほとんどは、新作タイトルの展示や体験を兼ねたものだ。
「例えば、大きなスタジアムで大会を開催し、5万枚のチケットを売れるかといわれると分からないし、まだその域に達していない。チケットを売ることにチャレンジできていない」(中村さん)
日本で人気のあるタイトルが、海外で競技人口の多いタイトルとは異なる点も見過ごせない問題だ。日本では「ストリートファイター」シリーズをはじめとする格闘ゲームのプロ選手が世界大会でも活躍しているが、世界で高額な賞金が出るのは「Dota 2」などのPCゲーム。5月には、米Epic Gamesがバトルロイヤルゲーム「フォートナイト」(Fortnite)のeスポーツ大会に、1億ドル(約110億円)の賞金を拠出すると発表したことも記憶に新しい。
また、日本eスポーツ連合が発行するプロライセンスも一部タイトルに限られており、それを批判する声もあった
eスポーツ先進国といわれる韓国や欧米諸国をまねればいいのかといえば、そう簡単な話でもない。中村さんは「欧米はプレイヤー主導で盛り上がったが、韓国や中国は政府や大企業による官僚主導で盛り上がった」とし、国によって事情や国民性も異なるため、簡単に他国の成功事例を模倣すればいいわけではないと強調する。
「韓国は2000年頃からプロプレイヤーをタレントに見立てて売り出そうとしていた。スポーツアスリートビジネスというべき大きな産業になり、それが軌道に乗ってしまったのがすごい」(中村さん)
アールさんは、2020年の東京五輪が日本のeスポーツをアピールする好機と捉える。
「2020年は世界各国の人が日本を訪れるので、eスポーツイベントもかなり大規模に行われるはずで、いろんな人が現時点でそれに向けて動いている。ゲームを普段やらない人にも、(eスポーツが)こういうものだと見せるタイミングが来る」(アールさん)
かずのこ選手は、「競技として真面目にやっている人たちがいるのを理解してもらい、スポーツ選手と同じように扱ってもらえるようになれば。自分の好きなものを胸を張って好きだと言えるのが理想」と、プロプレイヤーとしての思いを語った。