ケーブルテレビや衛星テレビなどの有料テレビが、Netflixなどのストリーミングサービスの台頭により窮地に陥っています。なぜNetflixはそれほどまでに恐れられる存在となっているのかを、CNBCが記しています。
Netflix: Why AT&T bought Time Warner and Comcast and Disney want Fox
2018年6月、アメリカの通信大手であるAT&Tがタイム・ワーナーを850億ドル(約9兆4000億円)で買収しました。2017年にはウォルト・ディズニーが21世紀フォックスの映画・テレビ部門を524億ドル(約5兆8000億円)で買収しており、その他にも複数のメディアが買収したりされたりを繰り返すという状況がここ数年続いています。従来メディアによる生き残りをかけたM&Aの理由について、企業のCEOたちが公言することはありませんが、アメリカのメディア・エコシステムの生命線である有料テレビが死にかけている状況を変化させるためであることは明らかです。
なぜ有料テレビが死にかけているのかといえば、原因はいくつかあり、モバイルデバイスやインターネットの普及などを挙げることができます。しかし、ほとんどの伝統的なメディアは「Netflixこそが有料テレビ衰退の大きな要因である」と考えているそうです。Netflixはインターネット経由で配信される映像コンテンツをストリーミング再生することができるというサービスで、従来の有料テレビサービスに取って代わる可能性を秘めたメディアとして期待されています。
by Charles Deluvio
新しいメディアの形としてNetflixは消費者からも大きく受け入れられており、これはデータを見れば明らかです。Netflixは過去5年間で9200万人も顧客を獲得しているのに対し、ケーブルテレビなどの有料テレビの契約世帯数は年々減少しています。さらに、従来メディアで大きな人気を誇っていた司会者などをNetflixに引き抜かれるという現象も起きており、コンテンツ面でも有料テレビがNetflixに後れをとるようになってきています。
CBSのトーク番組「レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン」の司会者として人気を博したデイヴィッド・レターマンは、2014年に番組を降板したあと、Netflixで「デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター」という新番組をスタートしています。
デヴィッド・レターマン: 今日のゲストは大スター | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
機関投資家取引と関連仲介サービスを専門とする世界的金融サービス企業のBTIGでメディアアナリストを務めるリッチ・グリーンフィールド氏は、メディア業界の風雲児であるNetflixの成功について「メディア業界のチェス盤上で過去最大の並べ替えが起きている」と表現しています。
従来型のメディア企業は台頭するNetflixに対抗すべく、自らの持つメディアを拡大し、さらなる力をつけるために買収を始めています。CNBCの親会社であるNBCユニバーサルを所有するコムキャストは、NBCユニバーサルとワーナー・ブラザーズのコンテンツを使ってトップクラスのデジタルストリーミングサービスを開始するためにAT&Tと事前協議を行っていると報じられており、他にもイギリスの衛星放送であるスカイを買収する計画も報じられました。その他、ディズニーが独自のストリーミングサービスを開始しており、こういった流れはすべてストリーミングサービスをメディア業界に持ち込んだNetflixに対抗すべく、従来型のメディア企業が打った起死回生の一手であると考えられます。
ディズニーが独自のストリーミングサービス開始、スター・ウォーズシリーズやマーベル・シネマティック・ユニバース作品などがNetflixで閲覧不能に – GIGAZINE
こういった従来メディアの取り組みについてNetflixのデイビッド・ウェルズCFOは懐疑的な目を向けています。「消費者は『消費者向けのサービス』を100個も望んではいません。また、消費者は幅広く驚くほどパーソナライズできるサービスを希望しており、5分ではなく30秒で何かを見つけることができるようになることを望んでいます」と語っています。さらに、ウェルズ氏は「一部のブランドはNetflixやYouTubeと競合し、世界の消費者に向けたメディアとして競合するのに十分な規模を持っています。しかし、誰もがそういった規模を持つわけではなく、コンテンツ制作に特化した方がいいメディアも存在します」と発言しています。
CNBCはNetflixのビジネスを家具販売ビジネスに例えています。マホガニーから家具を作る男性がいるとして、その人は家具の材料となるマホガニーを購入し、作成した家具を販売して生計を立てています。そこに、ある日リード・ヘイスティングスという男性が現れ、これまでになかったほど多くのマホガニー製の家具を購入してくれるようになります。しかし、しばらくするとヘイスティングは自身も家具を製造することに決めます。ヘイスティングはマホガニー材の販売業者に対して男性よりも50%多く料金を支払うと言い、さらに別の競合となるジェフ・ベゾスなる男性も現れ、こちらは75%も多く材料費を支払うと言い始めたとします。
このような理不尽な状況が、現在のメディア業界で起きている状況そのものであるそうです。もともと家具販売ビジネスを行っていた男性が従来メディアで、リード・ヘイスティングはNetflix、ジェフ・ベゾスがAmazon(プライムビデオ)を差しています。従来メディアがNetflixやAmazonと価格で競合するにはより多くの金銭を支払う必要性が出てきますが、「その余裕はない」とCNBC。また、なぜNetflixやAmazonが従来メディアと同品質のコンテンツを作成しながらより多くの金銭をコンテンツ側にかけられるのかについて、CNBCは「投資家から現金が流入しているから」と記しています。
by Thought Catalog
コンテンツに巨額の資金を投入するNetflixですが、利用料は月額8ドル(約900円)程度であるのに対し、ケーブルテレビなどの有料テレビは月額80ドル(約9000円)程度と10倍以上も高額となっています。また、Netflixはオリジナルコンテンツの作成に9000億円を投じる方針とも言われており、巨額の資金を投入することで数々の人気コンテンツを生み出すにいたっています。巨額の資金をコンテンツに投入しているということで、より多くの才能あるコンテンツクリエイター側も従来メディアではなくNetflixと独占的な取引をしたいと考えるようになっています。これはNetflixにとっては好循環であり、伝統的なメディアにとっては「死のスパイラルである」とCNBC。
この成果はNetflixの株価にも如実に現れています。5年前まで1株あたり約32ドル(約3500円)で取引されていたNetflixの株価は、記事作成時点では1株あたり約370ドル(約4万1000円)にまで高騰しています。これに対して、同時期にライオンズゲートの株価は15%減少しており、これもNetflixのようなストリーミングサービスの台頭が原因であると考えられます。
by Olga DeLawrence
BTIGのグリーンフィールド氏は2020年までにNetflixユーザーの数が1億2500万人から2億人に増えると予測しており、バンク・オブ・アメリカのアナリストであるナット・シンドラー氏はNetflixが2030年までにユーザー数を3億6000万人まで増やすと推定しています。一方、伝統的なケーブルテレビや衛星テレビなどの契約世帯数は年々減少しており、契約制対数は2015年の1億世帯から2020年までに9500世帯にまで減少すると予測されています。
また、Netflixでは従来メディアとは異なる方法で配信するコンテンツを決定していることを元Netflixのマーケティングディレクターであるバリー・エンドリック氏が明かしています。従来メディアにとって、「コンテンツが成功したかどうか?」を判断する指標は視聴率でした。しかし、Netflixでは広告を抑えたりすることでコンテンツへの支出をコントロールすることができるため、ニッチな番組であっても十分に成功する可能性があるとのことです。