「NHK受信料不要」で爆売れ チューナーレスが変えた「テレビ」の意味

2021年末以来、注目を集めている家電がある。地上デジタル放送やBS・CS放送が見られない「チューナーレステレビ」だ。

© ITmedia ビジネスオンラインドン・キホーテの「チューナーレススマートテレビ」。24V型と42V型の2モデルを用意。42V型でも店舗上限価格3万2780円(税込)と安い。22年2月末、6月末と2回の再販売により、累計1万3000台以上が販売されている(パン・パシフィック・インターナショナルHD提供)

 これまでも、テレビチューナーを内蔵していない製品は、PC用や業務用などのモニターやディスプレイのカテゴリーで販売されていた。

 しかし、21年12月にドン・キホーテが発売した「AndroidTV 機能搭載チューナーレス スマートテレビ」は、6000台の初期ロットが早々に売り切れるほどに大ヒット。チューナーレステレビの可能性を明らかにした。そして22年7月現在、複数のメーカーからチューナーレステレビが発売されている。

●NetflixやYouTubeだけを見る若者向けに

 実は17年にも、ドン・キホーテは50インチのチューナーレステレビを発売しているが、今回のような話題にはならなかった。

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 パソコンやゲーム機を接続するといったチューナーレスでのニーズは以前からあり、16年には家電ベンチャーのUPQやDMMが50インチの4Kディスプレイを発売。また日本向けのテレビ電波を受像できないことから、韓国国内用のテレビをモニターとして販売しているネットショップもあった。

 とはいえ当時の大型4Kディスプレイと、今、注目を集めているチューナーレステレビには大きく異なる点がある。それがYouTubeやNetflixなどの動画配信サービスを視聴できるスマート機能の有無だ。このスマート機能の搭載がブレイクスルーだったといえる。

 ドン・キホーテのチューナーレス スマートテレビには、標準でAndroid TVが搭載されており、この製品だけで、YouTubeやNetflixなどが見られる。まさにリモコンひとつで、動画配信サービスだけを楽しめる製品なのだ。「テレビ放送は不要」と考えれば割安で購入できる点が人気となった。そしてこの安さには、もう1つの意味がある。

●バズワードは「NHK受信料を払わなくていい」

 若者を中心としたテレビ離れにより、テレビチューナーを搭載しなくてもいいという考えが生まれている。さらにこの気持ちを後押しするのが、NHKの存在だ。放送法第64条には「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と定められている。ここでいう協会とは「日本放送協会」、つまりNHKを指す。

 NHKの受信料は、最も安い地上契約の12カ月で1万3650円。1カ月あたりの費用は1137.5円。これが「TVを持っている」だけでかかるわけだ。約3年間で4万円超とテレビ本体よりも高くなる。

 これを渋った若者層がドン・キホーテのチューナーレス スマートテレビを「NHKに受信料を払う必要がないテレビ」として支持。そして、ここに市場があると判断した複数のメーカーが、こぞってチューナーレステレビを続々と発売している状況だ。

 例えば、ドウシシャが6月下旬に発売した「ORION Android TV搭載 チューナーレス スマートテレビ」は、24V型、32V型、40V型、50V型と4モデルをラインアップ。通常のテレビのようにサイズを選べる。ドウシシャによると販売も好調で、動画視聴の目的はもちろん、家庭用ゲーム機用のモニターとして使うユーザーも多いという。

●大手メーカーのチューナーレステレビも、登場は時間の問題

 チューナーレススマートテレビが人気になっている一番の理由が、動画配信サービスの視聴機能、つまりスマート機能だ。大手メーカー製テレビの場合、低価格モデルにはスマート機能を搭載しないことが多い。つまり、3~4万円で購入できる大手メーカーのテレビの多くはスマート機能を搭載しておらず、別途、Amazonの「Fire TV Stick」といったスマート機能を自分で取り付ける必要がある。ならば最初からテレビチューナーの代わりにスマート機能を搭載した方が良いと考えるはごく自然な発想だ。

 また、そもそもテレビという言葉は、「テレビ放送」そのものを指す場合と、「テレビ受像機」という物体を指す場合がある。この2つの意味からも分かるとおり、物体としてのテレビは、テレビ放送を受像するためのチューナーを搭載しているのが当然だったわけだ。しかし「チューナーレス」テレビの登場により、物体としての「テレビ」の意味は大きく変わり始めた。

 大手メーカーはまだチューナーレステレビを一般発売していないが、6月には、エディオンがTCLと組んで独自のチューナーレステレビを発売している。エディオンの製品で注目したいのは、低価格での勝負ではなく、動画配信サービス視聴、ゲームモード、Dolby VisionやHDR10などの高画質化機能、高音質機能Dolby Atmosなどを搭載している点だ。

 このようにスマートテレビ市場が大きくなれば、現在、様子見をしているであろう大手家電メーカーからチューナーレススマートテレビがいつ登場してもおかしくないと考えられる。

●変わっていく「テレビ」の意味

 以前、大手家電メーカーのテレビ担当者から、「若者のテレビ離れって言いますが、あれはテレビ放送離れで、テレビでゲームしたり、YouTubeを見たりはしてますから、テレビそのものは使っているんですよね」と言われたことがある。チューナーレススマートTVの広がりは、これをまさに示したものだ。

 もちろんテレビ放送側も手をこまねいて見ているわけではない。民放キー局5局のテレビ番組が配信で見られるネットサービス「TVer」は、今年の4月よりリアルタイム視聴にも対応した。つまり、チューナーレススマートテレビでもアプリを入れれば民法のテレビ放送が見られるということだ。もちろんこの場合も、チューナーが内蔵されていないのでNHKの受信料はかからない。

 今、「テレビ」の意味が大きく変化し始めている。チューナーレススマートテレビがそのきっかけになることは間違いない。

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